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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
“the king created ridingarcher”
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encounter with my tiger_3

 学校の裏山で仁吉は、“鬼名”を扱うための教授を受けるために龍輝丸の大叔父、南茨木為剣(ためあきら)に――殺されかけていた。

 為剣からはどうも、自分と同じく振り回されて生きてきたような雰囲気を感じており、仁吉は勝手にシンパシーを感じていたのだが、その思考はスパルタであり、この人は紛れもなく龍輝丸の親族なのだと否応なしに思い知らされたのである。

 その手に持つ、穂先が剣のような形をした長柄武器――為剣が影於菟と呼んだ武器の脅威が容赦なく仁吉を襲っていた。

 仁吉もやむを得ず傀骸装し、両手に鉤爪――骨喰を出して応戦するが、為剣の攻勢は凄まじく、今のところ防戦一方である。しかも為剣は隙あらば全力の殺意を向けてきていた。ただしそれを行う時は必ず直前の動作に溜めを作り、攻撃は軌道の読みやすい大ぶりな攻撃なので躱すこと自体は可能だった。


(テレフォンパンチならぬテレフォンスラッシュってところか。防ぐなり躱すことは出来るけど……これ、気を抜いたら本当に死ぬな)


 しかも、為剣はこれでもかなり手心を加えているということが仁吉には分かった。それでいて、仁吉としては全力で挑んでいるつもりなのだが未だに攻略の糸口が見えないというところに空恐ろしさを感じる。

 そんな打ち合いを続けること十分ほど。

 為剣は急にその手を止めた。


「おい南方。さっきからお前は何をぬるいことをしてやがる?」


 その言葉の前には小さな舌打ちが聞こえた。為剣は明らかに苛立っている。


「俺だって暇じゃないんだ。わざわざこっちが露骨な大技狙って隙を晒してやってるんだから飛び込んできやがれよ。俺は別に、お前程度のガキ一人、生かすも殺すも自由なんだ。それなのに危険と感じたらビビりやがって」

「いや、だって――」

「だっても何もあるか。いいか、俺は別に守勢に入ることも、時に逃げることも否定はしねぇよ。だがな、攻めなきゃならない時には腹括って死線を越えなきゃならない時もあるんだよ」


 為剣は苛立ちながらも誠意を含んで仁吉に語り掛ける。その生真面目さが伝わってきたからこそ、仁吉も真剣にその言葉に耳を傾けた。


「一つ教えてやる。死線ってのは、必ずしもそいつを越えたら死ぬってものじゃない。そいつを越えられるかどうかが生死を分ける時もあるんだ」

「越えられるかどうか、ですか?」

「ああ。敵から遠のけば安全だとは限らない。戦いにおいて死ってのは分かりやすく二分されているんじゃない。だから、時には踏み込み攻めることが死に遠のく場合もあるのさ」


 為剣の言葉には、実際に過去に死線をくぐって来たであろう真実味がある。その言葉には仁吉も道理を感じてはいた。しかし、


「ええと……そもそもこれって、僕が“鬼名”を知るための特訓ですよね?」


 と仁吉は聞いた。いつの間にかただの戦闘訓練のようになっているのは何故だろうかという疑問が湧いてきたのである。しかし為剣はあっけらかんと、


「だから、そのために死ぬぎりぎりまで追い込んでんだよ」


 と言ってのけた。為剣もかつて自らが“鬼名”を自覚したのは戦いの中であったらしい。しかしだからといって今の仁吉にはここまで戦ってもそういった兆候はまるでなかった。仁吉自身も、追い込まれたら覚醒すると言われてそのために一か八かの賭けに出る気は起きないし、為剣も流石に安直すぎたかという気になった。


「なあ仁吉。今更こんなことを聞くのもなんだが……お前、自分の“鬼名”に興味あるか?」

「興味はあまりないですね。ただし、強くなれるなら知っておいたほうがいいのかな、くらいです」

「そうか。それなら、敢えて無理に知らないほうがいいかもしれないな」

「そうなんですか?」

「ああ。“鬼名”ってのはお前の魂の名前であり、つまりそこには今のお前が自覚していない過去を生きた人格が宿ってる。自分同士だからって必ずしもうまくやれるとは限らないんだよ。例えば……そうだな、今お前の前に、子供のころに誘拐されて海外のスラム街とか紛争地域で育った、みたいなもう一人の自分が現れたとして、そいつとお前は同じ自分だからって仲良くできるか?」


 無理でしょうね、と仁吉は即答する。

 為剣の説明から察するに今の南方仁吉という人格は、魂から過去の記憶をリセットして現代日本で育った結果得られたものであり、根は同じだがその人格やら思想やらは自分の中の“鬼”とはまるで異なる可能性もあるようだ。


「お前の中の鬼が、単に眠っているだけなのか、非協力的な奴なのかは俺には分からないがな。ちなみに、魂の親和性が高くて前世と今世の境界みたいなもんがほとんどない奴もいるらしいが、そういう手合いは解珠が出来るようになるのと同時に“鬼名”も自覚するみたいだから、お前は違うだろう」

「まあそうですね。しかし、となると僕の中にいる鬼……そもそも、いるってこと自体があんまり実感ないんですけどね」


 仁吉は、為剣の話は真剣に聞いているし今も特訓については真面目に取り組んでいるのだが、“鬼名”についてはどこか他人事のような態度である。どうにもピンと来ていないのだ。


「何か兆候みたいなのなかったか? こう、意識の中に誰かが現れたりとかさ?」

「そう言えば……虎、ですかね。真っ白な虎を見たと思ったら、宝珠が僕の手にありました」


 仁吉はぼんやりと、初めて骨喰を手にした時のことを思い出して口にした。

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