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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
“the king created ridingarcher”
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what's your soul name?_4

 日時は飛んで六月六日、木曜日の放課後。

 仁吉は夏日の照らす中、学校の裏山を一人登っていた。龍輝丸に紹介してもらうことになっていた、“鬼名”持ちの大叔父という人物と会うためである。

 紹介者である当の龍輝丸は、今日は検非違使の任務があるとのことで不在であった。しかも龍輝丸からは、まあ行けば分かるよ、というてきとうさである。真面目さを期待しても無駄だと諦めている仁吉はとりあえず頂上まで行くことにした。

 しかし辿り着いたそこには、それらしき人物はいない。

 頂上に設置してある屋根付きのベンチには、この暑いのに真っ黒なコートを着た、三十代くらいの銀髪の男性が一人いるくらいである。


(まだ来てない、か。まあ約束の時間まではあと五分くらいあるけど……)


 龍輝丸曰く、時間にはきっちりとした人とのことであったが、まだ姿は見えない。早めに来ているという意味ではなく、ちょうど約束の時間にやってくるという意味なのかもしれないと思い仁吉はとりあえず待ってみることにした。

 するとベンチに腰かけていた男性が、


「――お前か? 南方仁吉って奴は?」


 と声を掛けてきた。仁吉は怪訝そうな顔をしつつ少し後ずさる。


「……そうですが、ええと、どちらさまですか?」


 声に警戒を含ませながら仁吉は、逃げるべきか取り押さえるべきか考えていた。

 そんな態度の仁吉に苛立ちながら男性は仁吉に語り掛ける。


「龍輝丸から聞いてるだろ? あいつの大叔父の南茨木為剣(ためあきら)だ」

「……はい?」

「はい? じゃねえよ。あいつに言われて来たんだろうが!?」


 怒鳴って、為剣は仁吉を睨みつける。一方の仁吉は困っていた。


「いやあの、聞いてはいますが……その、あいつの祖父のご兄弟とお聞きしていたので…………」


 どれだけ若くとも五十代だろう、と仁吉は勝手に思い込んでいたのである。なので最初に為剣を見てもこの人ではないと決めてかかっていたのだ。


「あのアホ、ほんっとに何にも話してやがらねぇじゃねえかクソが!!」


 怒号が、今度はこの場にいない龍輝丸に向かって飛ぶ。そして、虚空に向かって悪態を吐き終えると、悪かったなと仁吉に頭を下げる。

 それを見た仁吉は、


(……この人も苦労してるんだな)


 と思うとかえって恐縮してしまい、見た目で判断してしまったことを詫びた。

 しかし為剣はもう仁吉にはつゆほども怒ってはおらず、龍輝丸への悪口をこぼすだけだった。


「まあ、ナリのことはあまり深く聞かないでくれ。こっちにも色々とあってな」

「分かりました。それで、為剣さんは“鬼名”持ちだと聞いたんですが、そういう人って検非違使ではよくいるものなんですか?」

「いや、ほとんど見たことがねぇな。俺にしても、なんで自分がこんなもんを持って生まれてきたのかなんてよく分からねぇし、お前もたぶんそんなところだろ?」


 そう聞かれて仁吉は素直に頷く。


「正直なところを言うと、魂には因果があるんだろうさ。だけど、この魂って奴は実に面倒な代物でな」

「と、いいますと?」


 そもそも仁吉には、魂というものが具体的に何であるのかさえよく分かっていない。そして、それを聞かれた為剣のほうもどう説明していいか困ったような顔をしている。


「まあ、色々と定義はあるんだが……一言でいうと、心の奥底にある精神性、ってことになるのか?」

「精神性、ですか?」

「敢えて言うなら、だけどな。もう少し今風に言うなら、肉体がハードウェアで、魂がソフトウェアだと思え。つまり、実際に現実で機能している肉体があって、そこに唯一読み込めるソフトウェアが魂だ。そして俺やお前は、魂というソフトウェアから得た情報を具現化して戦うために利用しているんだよ」


 そう言われると仁吉も一応納得はした。為剣のその説明で言うならば、今の仁吉はほとんどハードウェアのみで活動しており、ソフトウェアを活用出来ていない状態ということになる。


「一応、理解はしました。それで、僕は今の話で言うところの……ソフトを使うのがおぼつかない、という感じだと思うんです。そのあたりのレクチャーをしていただけるということですが、何をするんですか?」


 そう聞くと為剣は右手を前に出す。そこからは、真っ黒な光沢を持った珠が現れた。


「“揺蕩え”――影於菟(かげおと)


 叫びに応じてその珠――宝珠が形を変えた。その形状は穂先が剣のように尖った長柄の武器であり、西洋武器においてグレイブと称されるものである。


「さっさとお前も傀骸装しろ。とりあえずは――肉体指導だ」


 有無を言わさぬその姿勢を見て仁吉は、


(この人、間違いなく龍輝丸の親戚だ!!)


 と確信した。

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