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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
“the king created ridingarcher”
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pandemonium_5

 更に明けて次の日。六月四日火曜日の放課後。

 龍煇丸は蒼天、悌誉、桧楯の三人を喫茶店『サンタテレサ』に呼び出していた。

 蒼天と悌誉はコーヒーを頼んだだけだが、桧楯は紅茶とチーズケーキを注文し、龍煇丸はサンドイッチとゆで卵のついてくるモーニングセットを頼んでいた。


「……あのさ琉火ちゃん。今、三時半だよね。午後の?」


 サンドイッチを上品な仕草で食べる龍煇丸を見ながら悌誉は困惑したような顔をしている。


「そうですよ。でもここ、開店から閉店までモーニングやってるんで」

「……なんで?」

「マスター曰く、目を覚まして一番に食べる食事がモーニングなら何時にそれを食べるかはお客様次第、ってことらしいですよ」


 なるほど、と一応悌誉は頷いた。

 変わった店だと思いつつ悌誉は龍煇丸の手にしているサンドイッチを見る。こんがりと焼かれた食パンに黄身が半熟でとろりとした目玉焼きと分厚いハムステーキ、そしてレタスが挟まれている。

 食い入るような視線を感じて龍煇丸は、


「今からでもモーニング変更出来るよ。ちなみに俺の食べてるこれはモーニングAセットだね」


 と教えてくれた。露骨に凝視してしまったことは申し訳ないと思いつつ、誘惑には抗いきれず悌誉は追加注文をして頼んだコーヒーをモーニングセットに変更してもらう。


「悌誉姉って何気に食い意地張っておるの。成長期か?」

「……そんなことないさ」


 蒼天に指摘されて悌誉は気まずそうに目線を逸らす。


「いやー、こないだ二郎食べた時も並の野菜マシで余裕そうでしたよね? 次は大盛りマシマシとかいってみます?」

「……まあ、機会があればな」

「つーか家出してる最中に二郎食ってたんスかこの馬鹿姉貴!?」


 桧楯が言葉を鋭くするが、怒るポイントがどうにも分からないと蒼天は思う。そして改まって二人のほうを見て、


「こないだの週末はうちの愚姉が迷惑かけました」


 と頭を下げた。

 悌誉のほうは何も気にしていないといい、蒼天はその話の流れで前に桧楯に借りたままになった金を返した。借りてから返すまでに期間が空いてしまったことの埋め合わせは、『サンタテレサ』での桧楯の茶代を蒼天が払うことでチャラとなったのである。


「んじゃまあ、そろそろ本題に行きますか」


 サンドイッチを半分ほど食べ終えた龍煇丸は、ゆで卵のカラを剥きながら、この場に三人を呼び出した理由を話し始めた。ちなみに桧楯は龍輝丸とは姉妹なのだが今の今まで何も教えて聞かされていないらしく不服そうな顔をしている。


「はぁ、そうか。相川が不八徳……」

「なんじゃ、悌誉姉は知り合いか?」


 蒼天に聞かれて悌誉は首を横に振る。騎礼は不良で有名であり、その悪名は同学年ならば知らない者はないというだけの話であった。


「とりあえず俺と桧楯、あと蒼天には検非違使として正式な任務として回ってくると思うぜ。“伏魔殿の鍵”ってのが本物なら何が何でも回収しなきゃならないみたいだからな」

「まあ、そりゃそうに決まってるでしょ。姉貴は事の重大さの自覚ないんスか?」

「実はいまいち分かってない。なんか厄いもんが封印されてるのは知ってるけど――なんか不味いの? 今のところ封印は機能してるんだろ? なら別にここで勝って鍵を手に入れればオールオッケーじゃん?」


 龍輝丸にとっては、そして蒼天にもその程度の認識である。だが悌誉だけは黙り込んでいた。運ばれてきたモーニングにも手を付けずに考え込んでいる。


「その鍵とやらが危険な連中の手にあるのが危険というのは分かるがの。しかし、勝てばよいではないか? おぬしは何をそんなに危惧しておる?」

「ええっとッスね。その封印ってのが、ここ数十年で施されたもののはずなんすけど、その等級がハチャメチャに高いんスよ」

「等級というと……確か、術式やら武具やらの階級のことであったかの?」


 蒼天は前に龍輝丸に説明された知識を手繰って返す。


「はい。んで、そんな高度な封印術式を汲める術者がいたなんて記録はその頃にはないのに、しかし封印だけはされていて。しかも、あまりに高度かつ綿密すぎて部外者は迂闊に触れないって代物なんすよ、旧校舎の伏魔殿は」


 その説明で蒼天は桧楯の言わんとすることを理解した。

 つまり騎礼の語る“伏魔殿の鍵”とは真贋がとても疑わしく、万が一それが本物であったとすればその出所はどこなのかというさらに大きな疑問に行き当たるということだ。

 その話を龍輝丸は、持ち掛けてきた本人でありながらあまり興味がなさそうにしていた。蒼天にしても、桧楯の指摘は気にはなるが、今この場で話していても仕方がないと思っていた。

 しかし――悌誉だけが深刻な顔をしていた。そして、おずおずと龍輝丸と桧楯の会話に割り込んでくる。


「あの、ええとさ……その“伏魔殿の鍵”、たぶん本物だと思うよ」


 その言葉に、三人の視線は一気に悌誉に集中した。

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