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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
“the king created ridingarcher”
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将有五危

 そしてその日の放課後。泰伯もまたある人物を探して二年生の教室棟を歩いていた。無論、仁吉に頼まれた騎礼との戦争の仲間集めのためである。

 昼休みから探してはいたのだが間が悪くて会うことが出来ず、放課後になってようやくその人物――正雀(しょうじゃく)犾治郎(ぎんじろう)を見つけたのである。

 泰伯は犾治郎を捕まえると中庭のベンチに連れて行って事情を説明した。


「はあ、なるほど。不八徳との戦争ねぇ?」


 中庭に行く道中の自販機で買った缶コーヒーを飲みながら犾治郎は他人事のように言う。その透かした態度に若干の苛つきを感じながらも泰伯は真剣な顔をした。


「なあ、手伝ってくれよ。お前なら(・・・・)こういうのは(・・・・・・)お手の物だろ(・・・・・・)?」


 犾治郎の“鬼名”を知っている泰伯は、その“鬼名”の経歴への信頼からそう言った。


「そんなん、相手によるな。とりあえずその――相川先輩やっけ? その人と戦った時のこと詳しゅう聞かせてや」


 そう頼まれたので泰伯は、一昨日の白斗山であったことを出来る限り詳細に話した。


「なるほどな。まあ戦争()うからせやろとは思たけど、やっぱり軍勢系の能力持ちか」

「その名前の通り、軍隊を召喚する能力ってことでいいんだよな?」

「うん。泰伯くんの周りやと三国さんが持っとるあれやな」

「三国さんの場合は戦車と歩兵が主だけど相川先輩の場合は騎兵隊しかいなかったね」

「むしろ三国さんのほうがレアケースやろ。“鬼名”持ちで戦車部隊を率いた国なんてほとんどないからな」

「呉越の軍隊ならあり得るだろ? 確か呉は晋の巫臣(ふしん)が戦車の製法を伝えたんじゃなかったか?」

「まああの辺ならあるかもな。後は……まあ、秦もあるかもな。とはいえ、千乗の国で一番の大国といえばやっぱり楚やろ」


 その言葉には泰伯も頷く。


「逆に(えびす)となると騎兵のほうが主流やから、それだけで誰とは断定出来んよな。相川先輩も、その鬼面の男についても」

「……そうなんだよね。それで、どうだい? 手伝ってくれるか?」


 当初の話に戻ると犾治郎は少しだけ考えてから、


「条件付きでならええよ」


 と頷いてくれた。

 その条件というのは二つあり、一つ目は自分の素性を他の人間に明かさないこと。二つ目は、誰の命令も受けずに遊軍として動くことであった。


「素性を隠すのはいいけど、たぶん会長には声でバレるぞ?」

「そこはなんとでもやりようはあるよ。それより問題は二つ目やな。仕切るのが会長さんならええんやけど――たぶん、総大将みたいなポジションになるの三国さんやろ?」


 当然のようにそう言う犾治郎を泰伯は不思議に思った。これは元をたどれば仁吉が騎礼に挑まれた勝負なので、仁吉が総大将になると思っていたからだ。


「いや無理やろ。というか、それならやらんでボク。そんな分かりやすく沈むて決まり切った舟なんか乗れるかいな」


 それを仁吉への悪口と受け取った泰伯はムッとした表情をする。しかし犾治郎はそんな泰伯を見てため息をついた。


「泰伯クンは今まであの先輩と一緒に戦って何見てきたんや?」

「……うるさいな。お前こそ、南方先輩のことは何も知らないだろ?」

「そんなことないよ。あの人は五危(ごき)のうち、必死、忿速(ふんそく)を犯しとる。前線での槍働きには向いとるけど軍を束ねるとか論外や」


 五危とは『孫子』にある、将軍になっては行けない者の条件を指す五箇条である。必死、必生、忿速、廉潔、愛民であり、犾治郎の挙げた必死とは自らの死を顧みない者、忿速は挑発に乗りやすく短気な者のことを指す。


「ちなみに泰伯クンは必死、廉潔やな」


 廉潔とは清廉が過ぎて身を滅ぼす者を指す。


「世の中、全部当てはまるような人間てのはまぁおらんねんけど、大抵の人間はツーアウトくらい持っとるのがこの言葉のおもろいとこや思わへんかん?」

「……うるさいな。じゃあなんだ、条件に三国さんが総大将になることも追加しておけばいいのか?」


 泰伯が拗ねたように言うが犾治郎は首を横に振った。


「いやあ、別にそれはええよ。だいたい、あの人はたぶん自分が向いとるやなんて思とらんやろし、そういうことやりたがるタチともちゃうやろしな」

「……あのさ。お前、僕らの今までの戦い全部、どこかで隠れて見てたりしたか?」


 怪訝な目を向けられても犾治郎は素知らぬ顔をして、


「秘密」


 と返しただけだった。

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