the war_3
騎礼との戦争の仲間集めとして、蔵碓は検非違使を当たるといい、仁吉は龍煇丸に頼むことにした。
仁吉としては龍煇丸にはあまり借りを作りたくはなかったのだが、しかし龍煇丸ならば頼めば二つ返事で頷いてくれるだろうとも思っていた。
昼休み、グラウンドに呼び出してその話をすると龍煇丸は案の定、面白そうだと即答した。
「あのさ、出来れば如水も連れてきてくれないか?」
ついでにと仁吉はそう頼む。しかし龍煇丸はそちらには難色を示した。
「兄貴は……まー忙しいからな。たぶん無理だと思うけど、他の心当たりならあるよ。蒼天と悌誉さんと、あとはうちの妹も連れてくよ」
「……ピクニックに行くんじゃないんだぞ?」
「問題ないよ。みんな強いし。つーか、その戦争とやらが何するのか分かんないけど、一昨日みたいな感じなら蒼天は必須でしょ?」
龍煇丸の鋭い指摘に仁吉は思わず唸った。
一昨日の白斗山の戦いで、どうやら蒼天には兵士を召喚する能力があるらしいことを知った。騎礼もまた同様の能力を持っており、その上で戦争をしたいと挑んできたのであればこちらにも軍が必要となる。蒼天の能力は騎礼と戦うのに欠かせないのだ。
「ま、蒼天もたぶん大丈夫だよ。そんで今のところこっちの味方は……南ちゃん先輩に俺と桧楯、蒼天、悌誉姉さん。そんで茨木と蔵碓のオッサンか。錚々たるメンバーだね」
「……そうだな」
改めて龍煇丸が列挙するのを聞きながら、思った以上に大ごとになってしまったなと思わざるを得なかった。
「そういやさ、先輩ってまだ自分の“鬼名”知らないんだっけ?」
「ああ」
「そろそろ興味持ったら? 知ってりゃ色々と便利だと思うよ?」
「便利か?」
「ほら、鬼名解魂使えるようになるし」
「なんだよそれ?」
「簡単に言うと切り札だよ。みんな大好き強化フォームってやつさ」
龍煇丸は声を弾ませて言う。強化フォームというその言葉の響きに特撮好きの仁吉も顔にこそ出ないが少し心が躍った。
しかし現実的な問題として、どうやって自分の“鬼名”を知ればいいのかが分からない。
龍煇丸に相談してはみたが、龍煇丸もさあねと他人事のように言う。龍煇丸はあくまで傀骸装と宝珠を後天的に埋め込まれた存在であり“鬼名”はないと言っていたので助言出来ることがないのだろう。
しかし途中でふと、ポンと手を叩いた。
「あ、それならいい人紹介してあげるよ」
「いい人?」
「うん。俺の大叔父さんで、“鬼名”持ち歴うん十年、モルモット歴半世紀の大ベテラン」
「……モルモット歴ってなんだよ?」
「鬼方士の実験体ってこと」
そういうことかと仁吉は納得したが、半世紀もの実験体生活というのは想像するだけで陰鬱になってくる。
「というか、大叔父っていうと……叔父さんの叔父さんになるのか?」
「いや、じーちゃんの兄弟。まあ俺は南茨木家のじーちゃん知らないんだけどね。俺が養女になった時にはもう死んでたし」
「……そうか」
湿っぽい話かとも思ったが当の龍煇丸はなんとも思っていないようなので仁吉もあまり気にせず普通に話を続けることにした。
龍煇丸は必要なら騎礼との戦いまでに会える段取りをつけると言ってくれたので仁吉は素直に頼むことにした。
そして、その大叔父さんには騎礼との戦争に参戦してもらえないかと聞いて見たが、たぶん無理だろうと龍煇丸は言う。
「とにかく忙しい人だからね。会うって行っても、たぶん検非違使の任務に先輩に同行してもらって、実戦の中でレクチャーしてもらうような形になると思うよ?」
「そうか。まあ、それでもいいさ。なら、頼んでみてくれるか?」
仁吉の頼みに龍煇丸は軽い調子で頷いた。




