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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
“the king created ridingarcher”
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club“MURCIELAGO”

 夕飯を食べて帰路についた仁吉は家の前で、髪を金に染めて逆立てた男の姿を見ることになった。待ち構えていたその人物――不八徳の一人であり仁吉の悪友である相川騎礼は唐突に言った。


「おっす仁吉。ちょっと今から遊びにいこーぜ」


 そう誘われて仁吉はため息をついた。


「明日じゃダメなのか、それ?」

「ダメだろ。貴重な日曜日の夜なんだから、目いっぱい使わないと損じゃねえか」


 よく分からない理屈であるが、こういう時の騎礼は頑なであると知っているので仁吉は諦めて頷いた。


「まあいいけどさ。どこ行くんだよ?」

「そりゃ、高校生が悪い夜遊びするっつったらクラブ一択だろうが?」


 絶対他にもあるだろうと思いつつ、言われるがままに仁吉は騎礼についていく。

 先ほどまで歩いてきた道を引き返し向かったのは、坂弓駅南側の繁華街のあたりだ。喧騒が渦巻く中に、そのざわつきと眩しさから取り残されたような路地に入ったところに、ぽつんと道端の道祖神のようなささやかさで置かれた、立て看板がある。

 看板には『ムルシエラゴ』とカタカナで書かれていた。電気が灯れば赤と白の輝きを放つのだろうが今は電飾が切れているのかただ陰気なだけの置物である。


「おい騎礼。なんだよここ? クラブってこんな寂しいところにあるものなのか?」

「ああ、そういうもんだよ」


 騎礼はてきとうな調子で言う。


「外観とか立地的に、なんかいかにも怪しげな取引に使われてるか、外向きだけ偽装した裏カジノとかの雰囲気だそこれ?」

「お、よく分かったじゃねえか」


 その言葉を聞いた途端、仁吉は引き返そうとする。騎礼はその手を強く掴んで引き止めた。


「ここまで来といてそれは野暮だぜ? ノリ悪い男はモテねぇぞ?」

「いいよ別に。というか、坂弓にそんなところがあったってことがまず驚きなんだがな!?」


 それもこんな、学生が普通に出歩く繁華街の裏側に存在しているということが仁吉にとっては衝撃であり恐ろしかった。


「地下ってのはどこにでもあるもんさ。綺麗事とか真っ当な価値観だけじゃ生きてけない人間っつーのはどこにでもいるもんだぜ?」

「僕は別にそっち側じゃない!!」


 叫ぶと同時、仁吉は自分を掴んでいる騎礼の右手を左手で掴んで引き剥がし、力を込める。そこから合気をかけて騎礼の身動きを封じ込めた。


「ははっ、なんど掛けられてもすげぇよなそれ。全然動けねぇや」

「そう簡単に破られたら困るからな。今こそ一番正しい護身術の使い所だろ?」


 仁吉は目を細めて騎礼を睨む。しかし騎礼はもう抜け出すことを諦めて笑っていた。


「ま、そう堅いこと言わずについてこいよ。大丈夫、そんな危ないとこじゃねぇからさ?」

「お前が出入りしてるところの時点で真っ当なところでもないだろ?」

「そりゃごもっとも。流石、俺のことをよく分かってんじゃねぇか」


 仁吉が左手の握力を強くする。しかし騎礼は少しも痛がる素振りなど見せずに平然としていた。


「まあ、マジな話そんな警戒するなって。未成年の飲酒と喫煙に寛容で、たまーにおクスリ売ってくれるお兄さんがうろついてるだけの店だよ」

「思い切りアウトじゃないか!!」

「別に俺はクスリはやってないぞ? 酒とタバコくらいだよ」

「……そうか」


 その程度ならば仁吉は驚きもしない。酒に関しては初耳だが、煙草くらいならばやっているかもな、という予感はあったからだ。


「ま、別にお前に飲めとか吸えとは言わないさ。だから諦めてちょっと付き合えよ」

「……他に場所なかったのか?」

「ねぇな」


 あっさりとそう言われると仁吉は段々と面倒くさくなり、掛けた合気を解いた。そして嫌々の顔をしつつも騎礼と共に地下に降りていった。

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