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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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坂弓_2

 蒼天たち三人は二郎系ラーメンを堪能して帰路についていた。

 その道中、蒼天はずっと龍輝丸に冷やかされている。理由は、なんだかんだ孝直と言い合いながらも最後には次の将棋部の活動に顔を出すという約束をしたからである。


「蒼天ってああいうタイプが好きなんだ?」


 まるで鬼の首でも取ったかのように龍輝丸は、時に肘で蒼天を小突きながらにやにやとしている。段々と鬱陶しくなってきた蒼天はその肘を払いのけた。


「そういうわけではない。だいたいおぬしは、見かけによらずそういう嫌な女子らしさがあるのじゃの!! 男と女を見つけたらすぐに好いただの好かれただのと言いおってからに!!」

「いやー、そりゃするに決まってんじゃん。まして蒼天の場合、そういう気配ゼロだし」


 しかも龍輝丸は、まるでそれが義務だとでも言わんばかりに開き直っている。


「だけどまあ、確かに蒼天があそこまで突っかかるというか、相手を気に入るのは珍しいよな」


 そこに悌誉まで乗っかってきたので蒼天はさらに鬱屈な顔をして肩を落とした。


「別に、珍しくはないじゃろ? 自分で言うのもなんじゃが、余はけっこう気に入った相手には甘いタイプじゃと思うのじゃがの?」

「でも基本は女子じゃないか。玲阿ちゃんにしても、忠江ちゃんにしても、桧楯ちゃんにしても、しーちゃんにしてもな」

「それは偶然じゃろ。というか悌誉姉は、あれのどこを見たら余があのチビを気に入ったように見えるのじゃ?」


 心外だとばかりに蒼天は憤慨するが、しかし悌誉にはそうとしか見えなかった。隣の龍輝丸を見ると、悌誉に同意を示すようにうんうんと頷いている。

 蒼天はしかし頑として否定した。そもそも、将棋部に顔を出すという話になったのも、孝直が自慢のように将棋が強いと言い出して、自分ならば勝てると張り合った結果である。蒼天にすれば気に入ったとかまた会う口実にしようというつもりなど微塵もないのだ。


「まあ、惚れた腫れたじゃないとは思ってるよ。だけどまあ、せっかくの縁だ。一局打ってきてこてんぱんにされてこい」

「なんで悌誉姉は余が負ける前提なんじゃ!?」


 そう叫ばれて悌誉は、だってお前将棋なんかやったことないだろうという。事実、蒼天は将棋の定石はおろか駒の動かし方さえ知らなかった。それでも蒼天は勝てる気でいるのだから、その自信はどこから来るのだろうかと龍輝丸と悌誉は不思議がった。


「まあ、どうしても負けるのが嫌なら――昨日呼び出していたあの御仁にでも教えていただいたらどうだ?」


 悌誉が言っているのは鬼方士(ガイファンシ)の文献解読を手伝ってくれた痩身の男のことである。悌誉には彼の正体について検討がついており、将棋は知らなくとも少しかじればすぐに蒼天に指導できるくらいの頭の良さはあるだろうと思っていたのだ。


「……嫌じゃの。それくらい自分でやれとか、最低限の努力くらいはしてから教えを請いにこいとか言って、山のような将棋研究本を積んでくるに決まっておる」

「つーかそれで思い出したんだけどさ。結局、昨日いったあそこの竹簡には何が書いてあったんだろね?」


 龍輝丸の言葉で蒼天もその話を思い出した。そして、その話題になると急に悌誉は重苦しい表情で俯きだす。その顔色を見て蒼天と龍輝丸は、悌誉はその中身を既に読んだのだと察した。


「ねえ悌誉さん、何か俺のこと書いてあった?」

「……いいや」

「そっか。じゃあ俺はもういいや。あんまりそれ以外の小難しいこと聞くつもりもないしね」


 自分から言い出したことながら龍輝丸はまるで他人事のように言う。

 なおも暗い顔をしている悌誉の肩に蒼天が手を置いた。


「今日はもう夜も遅いし、また今度改めて聞かせてもらおうかの。どうも、悌誉姉が一人で負うには重い内容であったのじゃろう?」

「……そうだな。ありがとう、蒼天」

「気にするでない。余と悌誉姉の仲ではないか」


 その言葉で、悌誉の心の重荷はいくらか軽くなった。

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