the rival
ラーメン屋『乃更士』の前で泰伯たちと会った龍煇丸は四人を見るなり四バカと呼んだ。
悌誉は龍煇丸をたしなめるように、
「そういう言い方しないほうがいいの琉火ちゃん」
と言う。龍煇丸ははーい、と軽く流した。
一方、そう呼ばれた泰伯たちのほうはというと、たまにそう呼ばれることがあるのであまり気にしていない。
そして、この中で唯一の一年生である蒼天は龍煇丸がそう呼んだ理由がよく分かっていない。
小柄な男――彷徨はいかにも馬鹿っぽいと心の中で失礼なことを思いはしていたが、泰伯と他の二人、日輪と孝直にはそういう印象を抱かなかったからだ。
「なんじゃおぬしらバカなのか?」
そして、思ったことをそのまま口にしてしまう。
「そう呼ばれることもあるな」
日輪は特に腹を立てることもなく、澄ました顔でそう返した。しかし孝直はムッとした表情を浮かべた。
「泰伯さん。なんですかこの生意気な赤毛の中学生は?」
「誰が中学生じゃ!! 余は高校生じゃ!!」
「そうですか。見えませんね。背丈と精神性が実年齢に置いていかれてますよ」
そう煽られて蒼天も憤慨する。二人はラーメン屋の列の最後尾で口喧嘩を始めた。
龍煇丸はその様子をけらけらと無責任に笑っている。泰伯はそんな龍煇丸を横目で睨んだ。
「……元はと言えば君が原因だからね?」
「はは、悪い悪い」
少しも申し訳なさを感じていない、軽い調子で龍輝丸は笑う。そして横目で蒼天と孝直の口論を見て楽しんでいた。
泰伯はこれまで、南茨木琉火として龍輝丸のことを多少知ってはいた。明るくて元気な同学年の女の子というくらいの印象であったが、焱月龍輝丸としての彼女を知った上で今の龍輝丸を見ると、
(この子、いい性格してるな……)
と思った。
「ところで琉火ちゃん、二郎系とか食べるんだね?」
彷徨はまったく気後れすることなく龍輝丸に聞く。
「女子だって二郎系食べたくなることもあるよ。それにほら、先輩が食べたいって言ったから」
「私は一度もそんなこと言ってないよ琉火ちゃん」
悌誉はため息混じりに言う。ちなみに二郎系を食べたいと言い出したのはもちろん龍輝丸だ。
悌誉のほうも興味はあったので行くこと自体に異論はなかったのだが、蒼天は難色を示した。小食な蒼天は食べきれる自信がなかったからである。しかも龍輝丸の話ではこの店は食べ残しは罰金とのことなので蒼天は一人で留守番をするとまで言い出した。
しかし龍輝丸が、残しそうなら代わりに食べるとまで言ったのでついに蒼天が折れたのである。
そういった経緯から三人の夕飯は二郎系になったのだ。
まだ行列ははけないので、まだ子供のような口論を続けている蒼天と孝直以外は適当に雑談をして待つことにした。
待つこと十分ほど。ようやく順番になったので七人は順番に食券を買い始める。
泰伯、日輪、龍輝丸は大ラーメンのチャーシュートッピング。悌誉と彷徨は無難にトッピングも何もない並。そして蒼天と孝直は小である。
二人は同じサイズを頼もうとしたのに張り合って大を頼もうとしたがそれぞれ泰伯と悌誉に止められてしぶしぶとやめた。