dear my sister_5
結局、早紀の助言袋は何の役にも立たなかったので五人は潔く――探索を諦めた。ここまで探して何もないのであればもう騎礼か鬼面の男が持ち去ったのだろうという結論に達したのである。
泰伯は彷徨のことが気がかりだったので船乗りシンドバッドを探しに行ったが他の四人は肩を並べて山道を下っている。
とりわけ仁吉と悌誉は疲れ切った顔をしていた。
「散々な一日だったよ」
「まったくだ」
二人は、仁吉のほうが軽く知っているくらいでちゃんと話したことはないのだが、ため息を吐きながらとぼとぼと歩く姿はよく似ていた。
自己紹介もしないままにいつしか愚痴っぽい話になり、その流れで鬼方士の隠れ家の話が出た。それを聞いていた龍煇丸は思い出したように、
「そういや蒼天。あの書簡の山のまとめってどんな感じー? てか、今持ってなくない?」
と聞いた。今の蒼天は手ぶらであり、しかも隠れ家を出る時に要点をまとめたものを置いてきていたのである。これから取りに戻らなければならないのではないかと思ったのだが、その必要はないと蒼天は言った。
「既に余の宝珠の中にあるゆえ、その気になればいつでも取り出せる。じゃが……明日にせんか?」
「ま、そだね。んじゃ悌誉さん、わるいんだけど今夜も泊めてくれない?」
軽い調子で龍煇丸は頼む。悌誉は難色を示した。
「別に私は構わないんだが……その、家帰らなくていいのかい琉火ちゃん?」
「えー、今帰っても怒られるし。週明けたら帰るよ。あ、もちろんタダで泊めてなんて言わないからさ」
「お、なんじゃ龍煇丸。泊まっていくなら徹夜ボドゲでもするか? どうせ明日は日曜じゃし派手に騒ぐとするかの」
蒼天の提案に龍煇丸は乗り気になる。
そんな時に仁吉に着信がきた。相手は如水である。
『なあ仁吉。そっちの首尾はどんな感じだよ?』
「ああ悪い、連絡するの忘れてた。どうももう誰かに持ち去られた後みたいでな。今から下山するところだ」
仁吉は特に悪びれることなく淡々と話す。如水のほうも急な頼み事だったので特にそれを責めるつもりはなく、そうかと返した。
「ところでお前、白斗山には来てるんだろ? ならちょっと……ええと、太白砦のあたりまで来てくれよ」
『ん、まあいいけど』
如水は不思議そうに頷いて電話を切った。
その会話を聞いていた龍煇丸はこっそり逃げようとしたのだが、その手首を仁吉が掴む。合気をかけているので龍煇丸はその場から動くことが出来なかった。
「……ダメだよ先輩、こんなところで」
龍煇丸はわざとらしく恥じらうような声を出した。しかし仁吉は眉間を狭めて龍煇丸を睨む。
「気持ちの悪いことを言うなよ。お前は如水に引き渡すから観念しろ」
「……やだ」
龍煇丸は拗ねた子供のような顔をする。しかし仁吉には全く心動かされてはいない。
「いつまでも可愛い妹が家出したままだとあいつも心休まらないだろうからな。まあ、謝れば如水だって赦してくれるだろ」
「えー……やだ」
「聞き分けよくなれよ。僕だって出来ればあまり手荒なことはしたくないんだ」
「やむを得なくなればやるのか?」
悌誉に聞かれて仁吉は頷く。仁吉の言う手荒がどのくらいなのか分からなかったのだが、そう口にする仁吉の眼が据わっているので悌誉は少し恐ろしくなった。
「分かったよ。大人しく家帰るから、手ぇ離してくれない?」
「そう言ったら逃げるだろ? 深夜の山で迷ったお前を探すとかごめんだからな」
「まあ、それはそうじゃの」
龍煇丸の方向音痴を知っている蒼天はしみじみと頷く。しかし龍煇丸はなおも嫌だ嫌だと駄々をこねた。
「なあ南方。その、お前の気持ちも琉火ちゃんの気持ちも分かるよ。だから、とりあえずこの週末はうちに泊まってもらうのはどうだ? 週明けにはちゃんと家に返すからさ」
「まあ、南千里さんがそう言うなら……」
そして、悌誉に押される形で、週明けに学校で如水に会いにいくということを条件に仁吉は妥協した。三人には迂回して下山してもらい、仁吉は如水を説き伏せるために太白砦跡へと向かった。
 




