表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
371/390

三嚢之呪

 鬼面の男が消えたことで蒼天と悌誉は悠々と崖上に上がることが出来た。暫くして仁吉と泰伯もそこへ合流する。


「助かったよ三国さん」

「気にするでない泰伯どの。それよりも――どういう状況なのかおしえてもらえんかの?」


 そう聞かれて仁吉と泰伯は驚いた。蒼天の話では三人は本当に何も知らないらしい。だがそこで仁吉は如水の話を思い出し龍煇丸を睨む。


「そういやお前、家出中なんだろ? こんなとこで何やってるんだ?」

「だから家出だよ。家出娘が家の外にいるのは普通の流れだろ?」

「そのせいでこっちに検非違使の厄介事が回って来たんだけどな!!」


 そう言われて今の白斗山での騒動は検非違使案件なのだと蒼天たちは知った。その内容を教えられて龍煇丸は露骨に楽しげな笑みを浮かべ、ならば早く山頂へ向かおうと無邪気に言い出した。

 仁吉はもう龍煇丸に任せて帰ってしまおうかという気さえしてきた。しかしそれだと如水に申し訳ないので、仕方なく龍煇丸の後をついていく。

 その道中には、先ほどまでの激戦がすべて夢であったかの如く、驚くほど敵がいなかった。龍煇丸は露骨につまらなそうにしたが蒼天は一つの可能性に思い至る。

 つまり、もう敵は目的である“月の心臓”を手に入れており、撤退してしまった後ではないのかということである。現状だとそれが一番あり得ることであった。

 そしてそれは仁吉も薄々感じていることである。

 特に仁吉はその敵――おそらくは騎礼が、既に目的を達しているのだろうと確信していた。

 しかしここまで来た以上、せめて山頂までは行かなければと思いその意見を喉のところで留めている。

 そして、何の障害もなく頂上へついた。

 五人はそこで色々と探し回ったのだがそれらしき物は欠片も見当たらない。

 どうしていいか分からなくなったその時。

 仁吉はふと、ある物の存在を思い出してブレザーの内ポケットから取り出す。それは赤、青、黄の三つの小袋だった。


「ん、(みな)ちゃん先輩。それ何ー?」

「知り合いに貰った……三国志でよくあるらしい作戦袋」


 龍煇丸の問いかけに仁吉は重い声で答える。そさてその言葉に、近くにいた泰伯が食いついた。


「なんですかそれ!? え、もしかして先輩、知り合いに諸葛亮とかいます?」

「……誰だよショカツリョウって?」


 おそらく三国志の登場人物なのだろうと思いながら仁吉は俯いた。

 これをくれた図書委員長――千里山西早紀曰く、困った時にあけるといいとのことだったが、仁吉はその存在をすっかり失念したまま半月が過ぎていた。

 ならばいっそここで開いてみるかと思ったのだが、妙に目を輝かせている泰伯と龍煇丸を見て仁吉は、


「……一つずつやろうか?」


 とつい口にしていた。

 龍煇丸は、なら遠慮なくと即答で赤い袋を手にし、泰伯は少し躊躇いつつも青の袋を手にする。

 信姫はこれを、軍師が授ける物理的な知恵袋と言っていたが、こうなるとまるで一昔前に流行ったフォーチュンクッキーみたいだと仁吉は思う。

 泰伯と龍煇丸は心を弾ませながら。

 仁吉は軽い気持ちで袋を開けた。

 その中には四つ折りにされたメモ帳に鉛筆で文字が書かれている。

 仁吉の開けたものには、


『楽しんでやる苦労は苦痛を癒すものだ』


 とあり、泰伯のそれには、


『疑事無功、疑行無名』


 とあった。そして龍煇丸の開いた袋には、


『もしもあなたが戦士で、戦うためにのみ生まれたのだとしたら、あなたの生きる目的と対等の相手は敵の中にしかいない』※1


 とあった。

 仁吉のそれはシェイクスピアであり、泰伯のは『史記』である。そして龍煇丸の開いたのは、仁吉の愛読するライトノベルの引用であった。

※1電撃文庫、著・上遠野浩平『夜明けのブギーポップ』p145、146より


ブクマ、評価が増えてました!! ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ