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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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bad friend_5

 中学の頃からの悪友、騎礼が現れたことで仁吉は――諦めたような顔をしていた。しかもその諦めに深刻な様子はまるでなく、飼っているペットが家具を壊してしまった、くらいの軽さである。


「なあ騎礼……。お前は、どっち側なんだ?」

「そりゃもちろん不八徳だよ」


 どっち側か、というだけの不明瞭な問いかけにも騎礼はあっさりと答える。騎礼が“鬼名”持ちなのは明らかで、しかも隠そうという気もないらしい。

 そして仁吉はそんな返答にさえ、やはり諦めとともに仕方ないなという表情を浮かべた。


「それで、何しに来たんだよお前?」

「そりゃあ、こんな夜中に曰くつきの山に来てやることっつったら一つだろうが。――宝探しだよ」

「なるほど。まあ、そりゃそうだよな」


 仁吉がそうため息をついた次の瞬間、仁吉は地面を蹴って目にも止まらぬ速さで騎礼の眼前に跳びすさった。両手に装備した鉤爪――骨喰(ほねばみ)を振りかざして騎礼の首筋を狙っている。

 しかしその切っ先が騎礼の肌を裂くより早く、騎礼は両手に持った銃の引き金を引く。銃口から光弾が放たれた。仁吉は骨喰で防ぎつつ後退する。

 一瞬の攻防であった。その判断の速さに泰伯は、とても困った顔をしている。


「ええと、あの……先輩? 南方先輩?」

「――なんだよ?」


 仁吉の言葉には、普段泰伯に向けている以上に棘があった。


「いやあの、あれ……相川先輩ですよね? 先輩の友達の」

「そうだったらなんだ? だいたい、なんでお前は僕の交友関係なんて知ってるんだ? あいつと友達だなんてお前に話した覚えはないぞ?」

「まあそれは……西山天王山先輩から聞きました。それに相川先輩は、悪い意味で有名なので知ってますよ」


 泰伯の言葉に仁吉は、腕を組みながら眉間のしわをいっそう険しくしたり、そうかと思うと目を瞑って空を見上げたり俯いたりしていた。そして、


「……まあ覇城なら、仕方がないか」


 ようやく、そんな言葉を絞り出した。その雰囲気がとても重苦しいので泰伯は、誰からの話ならば駄目であったのか気になりはしたのだが聞くことが出来なかったのである。


「それで――僕とあいつが友達なら何か問題があるのか?」

「いやその……敵だと分かってから攻撃まであまりにもノータイムすぎません?」


 基本的に戦闘において即断即決はよいことである。一瞬の迷いが命取りになることもある以上、仁吉の行動は合理的であった。しかしそこに至る迷いのなさに泰伯は呆気に取られていたのである。

 もし自分の立場であれば――例えば彷徨や日輪、孝直が不八徳であると知れば少しは迷うし、どうにか対話出来ないかと考えるだろう。しかし仁吉にはそういう様子が欠片も見られない。それを仁吉らしくないと泰伯は感じたのである。


「どうせ傀骸装してるんだから死にやしないだろ」

「いやあの……傀骸装してても首刎ねられたり、頭や心臓潰されたら死ぬらしいですよ」


 泰伯は前に犾治郎に教えられたことをそのまま話す。そういう知識を授けてくれる師匠のいなかった仁吉は、そうなのかと真顔で返し、


「じゃあ、次は腹か腕でも狙うか」


 と、やはりこともなげに口にした。あまりにもあっけらかんとしているので泰伯はますます困惑してしまう。


「あの、南方先輩……。もしかして実は相川先輩のこと嫌いだったりします?」

「まさか。僕にとって唯一の親友と呼べる相手だとも」

「それならその、少しくらいショックとか躊躇とか…………ないんですか?」

「ないな」


 いっそ清々しいまでにはっきりと仁吉は言う。


「むしろ親友だからこそこんななんだよ。こいつはな、頭が良くて性格が悪くて、そして危ないことが大好きな奴なんだ。僕の考えることくらいはお見通しだろうし、今ここに姿を現したことにも思惑があってのことだろうし、その上で現状を楽しんでいるに違いないんだよ。ならこっちも容赦なしにいくしかないだろ?」

「は、はぁ……。ええと、そうなんですか?」


 困り果てて、泰伯は騎礼に問いかけた。しかし騎礼は歯を見せて貪婪に笑うと、


「さぁ、どうだかな?」


 とはぐらかした。基本的には融通の利かない性格で仁吉を辟易させている泰伯が、今は仁吉とその悪友たる騎礼の奇妙な関係性に翻弄されるという実に珍しい絵面がそこにある。

 泰伯はどうしたものかと考えながら、しかし不意に奇妙な音がしたのに気づいた。

 騎礼に悟られぬように周囲を見回すと、いつの間にか騎兵に囲まれていたのである。

 泰伯は声を殺して仁吉にそのことを教えた。それを聞いた仁吉は、


「やっぱり、性格が悪いよなお前」


 と臆面もなく言う。

 しかし騎礼のほうも悪びれることなく、


「そりゃそうだろ。お前はまさか俺のことを、聖人君子だと思って付き合ってたわけじゃねえだろ?」


 と返してきたので仁吉は、まあなと諦めたように頷いた。そして騎礼はそのまま夜闇に紛れて姿を消してしまった。

 残されたのは仁吉、泰伯と――それを取り囲む、二十を超える騎兵隊である。

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