bad friend_4
泰伯と合流する少し前。仁吉は勇水を抱えて木の上を飛び移り山頂を目指していたのだが、その途中で再び光弾の嵐に襲われた。しかもその軌道は明らかに山頂から遠ざけるように仁吉を誘導している。
「ねえヒトヨシくん。今はまず、この光弾を撃ってくる相手をどうにかしたほうがいいんじゃないかしら?」
「そうだね。イサミちゃん、どこから狙ってきてるか分かりそうかい?」
そう聞かれて勇水は目を瞑る。ややあって、西側ね、と言った。
仁吉は西側へ走る。しかしその道中に騎兵が待ち構えていた。
「ヒトヨシくん。ここからは別行動にしましょう。私を抱えたままだと貴方がまともに戦えないわ」
「別行動って……。大丈夫なのかい? こんな、敵がうようよいる場所で?」
勇水の提案に仁吉は案じるような顔をした。
両手が使えない現状が不利というのは確かなのだが、しかし勇水を一人にするのも気が引けるというのが仁吉の本音である。
「まあなんとかなるわ。最悪、逃げて隠れるくらいなら出来るわよ。ここで私を庇って共倒れするよりはよほどいいと思うけれど?」
「それは……そうかもしれないけれど……」
仁吉はまだ難色を示している。しかし二人と騎兵の距離はそう話している間にも縮まっていた。
「大丈夫よ。ヒトヨシくんは心配屋さんね」
「真っ当な感覚だと思うけれど?」
「まあそうね。だけど本当に私は大丈夫だから。これは強がりなんかじゃないわよ」
そう言われると仁吉としても、分かったと返すしかない。その反応を満足そうに見つめると勇水は仁吉の腕の中でその体を白い羽根に変えてどこかへ姿を消した。
そして仁吉は眼前の兵士を蹴散らしたところで泰伯と遭遇したというわけである。
今はとりあえず周囲に敵の気配はなく、光弾の雨もひとまず止んだようなので二人は互いの状況を共有した。
「なるほど、月の心臓ですか。船乗りシンドバッドの言っていた危険物というのもたぶんそれでしょうね」
「だろうな。というか、そういう厄い物がそう二つも三つもあるだなんて思いたくはないぞ」
仁吉の言葉に泰伯も頷く。
「そうでなくても、少なくとも敵が二勢力はいるってのに、これ以上ややこしいことが起きてたまるか!!」
「あ、やっぱり二つはいますよね敵?」
「いるな。少なくとも騎馬隊が二つはいる」
「騎馬隊が二つ……ですか?」
泰伯は眉をひそめる。泰伯が遭遇したのは鬼面の男が率いるモンゴル風の服を着た騎兵だけだったからだ。しかし仁吉は、二つの騎馬隊があって戦っていたと話す。
「そのうちの片方は、こう……遊牧民っぽい感じじゃなかったですか?」
「……どんなだよ遊牧民スタイル?」
「ええと……『スーホの白い馬』に出てくるようなイメージですかね?」
そう言われて仁吉の頭の中に漠然とイメージが浮かぶ。しかし仁吉の見た二つの騎馬隊はどちらもそういう風ではなかった。
「ええ、じゃあまだ敵いるんですかね? 第三勢力ですか?」
「というか、さっきから馬鹿みたいにポンポン光弾撃ってくる奴が今のどの勢力にも属してないならさらに増えるぞ、敵」
仁吉の指摘に、泰伯と口にした当の仁吉はうんざりとしてしまった。
現状を確かめてみたところで、仁吉たちは圧倒的に分が悪い。一人当たりの実力は大したことがないといえど数が多いというのは有利である。まして今回のような広範囲から何かを探すという状況であればなおさらだ。
蒼天がいてくれたら、と泰伯は思ったがそんなことを口にしても仕方がない。二人だけでなんとかこの状況からどう動くかを考えねばならないのだ。
「どうします?」
泰伯に聞かれて仁吉は悩んだ。しかし、当初の方針でいくべきと考えた。
つまり、光弾を撃ってくる敵を優先して潰すのである。
如水も後から合流するし、船乗りシンドバッドも来ているらしい。後者は仁吉にとってはひたすらにいけ好かない相手なのだが、まさかこの状況で敵対するようなことはないだろう。ならば“月の心臓”の捜索を任せてこちらは厄介な敵を減らすことに注力したほうがいいと考えたのである。
そう説明すると泰伯も納得した。
しかし探すにしても、二人にはおよそ探知能力と呼べるものがまるでない。軌道からして二人が今いる場所――白斗山の西側から撃ってきているのだろうと推測は出来るがその程度である。
その時だった。
光弾が飛来する。それも先ほどのように頭上からではなく、木々の隙間を縫うように飛んできた。
躱しつつ、二人は光弾の飛んできた方へと走る。
そこには両手に拳銃を持った金髪の男が立っていた。
「よお――相変わらず、シケたツラしてんな仁吉」
「……騎礼?」
歯を見せて笑うその人物は仁吉の旧知の悪友――相川騎礼だった。