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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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black rider

 黒馬に跨り、鬼面を被った男は顔こそ見えないが年の頃は泰伯とそう変わらないように思えた。


「“南風黒旋(はえのこくせん)”!!」


 泰伯は無斬を振るう。夜闇の中を、その闇よりもさらに濃い漆黒の魔力の刃が走った。狙うは馬の足である。

 しかし鬼面の男は馬腹を蹴ると勢いよく跳躍した。そしてあり得ないような高さまで跳ね上がる。同時に、その背後の騎兵たちから矢が一斉に放たれた。

 船乗りシンドバッドは泰伯を庇うようにその前に躍り出ると体をコマのように回転させ、羽織った外套で矢をすべてはたき落とした。


『泰伯、お前は鬼面の男をやれ!!』

「了解!!」


 泰伯は再び鬼面の男のほうへ走る。鬼面の男も剣を抜いた。それは、モンゴル風の騎兵団を率いる男には似合わない中華風の直剣である。


「へえ、てっきり曲刀かと思ったんだけれどね」


 探るように聞くが鬼面の男は答えない。そのまま馬上から激しく剣を振り下ろしてくる。

 山中で足場が悪いこと。そして泰伯は徒歩であることもあり防戦一方である。いや、攻撃にこそ回れていないが未だ傷の一つも受けていないだけ善戦しているほうであった。

 泰伯は、まずは相手を馬から下ろそうと何度も黒馬を狙う。しかしその攻撃はすべて読まれており、羽根のような軽やかな馬さばきによって躱されていた。

 そして、泰伯が“南風黒旋”を放ち、魔力の刃が消えるその瞬間を狙って鬼面の男が黒馬を走らせる。勢いのよい騎突を受けて泰伯の体が大きく吹き飛ばされた。

 泰伯はどうにか受け身をとりつつ追撃に備える。しかし鬼面の男は追ってくることはなく、代わりに左手をサッと前に出した。

 泰伯が怪しんでその手を見ると、周囲でがさりと音がした。次の瞬間、四方八方から矢が放たれる。


(くそ、伏兵か――!!)


 泰伯は咄嗟に心臓と頭を庇う。そのおかげで致命傷だけは免れたが、その全身はハリネズミのようになってしまった。

 全身に激痛が走る。しかし敵は当然待ってくれるはずもなく、続けざまに第二射が来る。泰伯は咄嗟に左に跳んだ。

 囲まれている状況はまずいと判断し、まずはこの包囲網を抜け出すことを優先することにしたのである。

 傀骸装で強化された身体能力は三歩で囲んでいる伏兵の元へと泰伯を運ぶ。そこにいる伏兵――弩を構えた歩兵を斬って泰伯は辛くも包囲を抜け出した。

 しかしそこへ鬼面の男が泰伯を見据えて弓に矢を番える。

 狙いは首筋だ。それも恐ろしく正確な軌道である。狙われている、とどうにか気付いた時には鬼面の男は照準を定めていた。

 泰伯は咄嗟に手近な木を盾にしようと走るが遅い。その矢が泰伯に届こうとしたその時である。

 急に空が真昼のように明るくなった。

 その場にいた全員が見上げると、無数の光弾が雨のように降り注いでくる。


(新手か!? しかもこれ、完全に無差別じゃないか!!)


 状況を把握出来ないまま、泰伯はがむしゃらに走るしかなかった。今の泰伯にこの攻撃を防ぐだけの余裕はなく、とにかくこの光弾の有効範囲から逃げることが先決である。

 しかも恐ろしいことにこの光弾は着弾した瞬間に爆発する仕様であるらしい。あちらこちらから爆発音が連続して起きる。

 直撃こそ免れたが泰伯はその爆風によって吹き飛ばされてしまった。

 やがてようやく山中に静寂が戻る。しかしそれは一時的なものでしかないことは明らかだ。

 だがあの爆撃のおかげで鬼面の男やその兵たちとは距離を置けた。泰伯は周囲に敵がいないのを確かめて傀骸装を作り直す。


(さて、どうしようかな? どこまで飛ばされたか分からない上に船乗りシンドバッドともはぐれちゃったや)


 この広い山中で合流を目指すよりは単独で山頂を目指すべきだろうと泰伯は思う。

 しかしその時、再びけたたましい馬蹄が聞こえた。音の方向は山の上からしている。

 斬り払って進むべきかと考えたが、あまりに数が多い。敵を倒すのが目的でない以上、泰伯はひとまず迂回してから山頂を目指すことにした。

 するとまた足音が聞こえる。

 それも、まるで獣のような俊敏さを連想させるとのである。また新手かと思って泰伯が剣を構える。しかしその先にいた相手の顔を見て泰伯は安堵した。

 逆に、その人物は泰伯の顔を見て渋面を浮かべる。


「南方先輩、どうしてここに!?」

「……それはこっちの台詞だよ」


 その人物――南方仁吉は重苦しい声を吐いた。

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