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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter1“*e a*e *igh* un***tue”
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end of monster's march

 光の中から現れた仁吉は、その両手に白い三本の鉤爪のような形の武器を装備していた。

 蛇の怪物は光の柱を恐れているようだったが、仁吉がその中から現れ、光が消えたのを見ると仁吉に飛びかかってきた。

 仁吉は腰を深く落とし、両手の鉤爪を構える。

 そして廊下を蹴り、蛇の怪物へと向かっていった。

 決着は一瞬だった。

 仁吉と蛇の怪物は交差し、すれ違った刹那、蛇の怪物の首を落としていた。


「何がなんだか、わからないことだらけだ。だけど……考えてる時間はない。早く屋上に行かなきゃな」


 **


 グラウンドにて。

 泰伯と蜘蛛の怪物との戦いが続いている。

 泰伯の持つ剣、無斬にはその刃渡りを越えて斬撃を放つ力があり、泰伯自身の身体能力も向上している。

 にも関わらず両者の勝負は拮抗していた。

 理由として、無斬は斬撃で刃の届かないところを斬れるといっても、その射程には限界があるということだ。蜘蛛の怪物は瞬時にそれを見抜くと、泰伯の刃の届かないところまで後退してその間合いを維持している。

 しかも蜘蛛の怪物はその上で、紫色の粘液を飛ばして泰伯を攻撃してきていた。

 避けることこそ可能だが、迂闊に近づくことが出来ないのだ。


「くそ、見た目通りに狡猾だな」

『老獪と言ってもらおうかの。ほれほれ、そのように悠長に構えていてよいのか? もうあと少しもすれば、儂はそこらの学生(がくしょう)どもの命を吸い尽くしてしまえるぞ』

「……くそ」


 近寄ってこいと誘われている。

 挑発に乗るのは悪手と理解はしているが、時間に余裕がないことに違いはない。


(無斬の攻撃だと、腹の下から致命傷は無理らしいな。フェイロンに使ったアレならいけるかもしれないけど……使うのには溜めがいる。なら――まずは機動力を()ぐことからだ)


 頭の中で算段は立てた。

 後は、何が何でもやり遂げると、蛮勇に似た覚悟を決めて泰伯は蜘蛛の怪物へと吶喊する。

 真っ直ぐ迫る泰伯に、蜘蛛の怪物が粘液を飛ばす。

 避けつつ腹の下に潜り込もうとした時だった。


(足が……動かない!?)


 泰伯の両足がピタリと止まった。

 泰伯の意思ではない。それはまるで、野を舞う蝶が気づかぬままに蜘蛛の巣に絡め取られたかのように――。

 そして泰伯の体を粘液が包み込む。

 体を針山にされたかのような激痛が泰伯を襲う。加えて、水の中にいるかのような体の重さが全身を包んだ。


「これ……は?」

『ふぉっふぉっふぉ、儂の編んだ蜘蛛の糸はいかがかの? 触れた者の動きを止め、魔力、生命力を永久に吸い続ける妖魔の糸じゃ。毒を浴びたその体で魔力を吸い続ければおぬしがいかに健勝であろうと、そう長くはもつまい』

「そう……か……。なるほど、ね。見た目どおりに、蜘蛛らしいじゃないか……」


 泰伯の全身から嫌な汗が吹き出てきた。しわがれた声で笑う蜘蛛の怪物を見ながら、しかし泰伯も笑っていた。

 毒の苦しみに耐えながら、虚勢の笑みを浮かべているのだ。


「ありがとう。初めて、君のおしゃべりに感謝するよ」


 そう言って泰伯は、自分の周囲の地面を斬りつけた。

 直後、もうそこに泰伯の姿はなく、再び蜘蛛の怪物の腹の下に潜り込んだ泰伯は、今度は後ろの足二本を切り落とした。

 蜘蛛の怪物は、残る四本の足では自重を支えきれないらしく地面に沈み込んだ。


『おの、れ……』

「たとえ目に見えなくても、蜘蛛の糸があるというなら……それを斬ればいい。……少なくとも君の体を一撃で両断するよりは、簡単だったよ」


 泰伯が無斬に力を込める。

 鍛冶師を名乗る彼に教えられたように、魂を(とか)し流す。


「魂を(とか)し、流し、心火以て風を起こす。我が敵は眼前に居らず。絶ち斬るは虚空に在り」


 無斬が黒い光を纏う。その形はさながら可視化された嵐のようで、瞬く間に増大していった。


『待て、やめ……』


 しかし蜘蛛の怪物の制止など泰伯の耳には届かない。


破軍風刃(はぐんふうじん)!!」


 叫びとともに放たれた風の刃が、蜘蛛の怪物を両断した。

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