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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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wip of Mr.thunder

 突然の騎兵隊の出現に泰伯が頭を悩ませていると、その背後から天珠は籠城戦でもするか、と声をかけてきた。

 とても落ち着き払っており、この異様な状況に対する疑問や動揺などはまるで見られない。


「天珠さん、貴女は――?」


 泰伯は険しい顔をして天珠を見る。その言葉に、天珠は無言のままにこりと微笑んだ。美しく、それでいてあどけなさの残る笑みである。それなのに泰伯は背筋が冷たく震えるのを禁じ得なかった。

 何か、名状しがたき魔性の存在が人のふりをしているような不気味さがある。それでいて敵意や害意といったものは一切感じとれないのがいっそう恐ろしい。


「おや、そんなに警戒しなくてもいいだろう? 悲しくなってしまうじゃないか」

「……そう言うならせめて、貴女が何者なのかくらいは教えてもらえませんかね?」


 泰伯の額には濁った油のような、どろりとした汗が滲んでいる。凰琦丸と戦った時とはまた異なる嫌な感じであった。

 底の見えない崖底を見つめているような気分である。底が知れない、のではなく、底が見えないのだ。


「ふむ、僕が何者かか――。しかし、そんなことを話している時間はあるかな?」


 そう言って天珠は下を指差す。騎兵隊はもう間近まで迫っていた。手綱を緩める気配はなく、泰伯たちもろとも踏みつぶす勢いである。

 泰伯は舌打ちしつつ傀骸装し、無斬を出し、駆け出す。漆黒の刃が伸び、前衛の騎馬の足を挫いた。それを受けて隊列が少し乱れたが、騎兵隊の足は止まらない。


「仕方ないな。少しだけ助勢してあげようじゃないか」


 天珠はそう言うとトン、と錫杖で地面を突いた。遊環同士が触れ合いシャランと音を鳴らす。

 その音が合図であるかのように天珠の後ろから八つの金色に煌めく武器が現れた。握り手があってその両端に三叉の刃物がついた、いわゆる金剛杵(こんごうしょ)と呼ばれるものである。

 八つの金剛杵はそのすべてが帯電しており既に夕方であるのに天珠の周りだけはまるで真昼のような明るさである。


「さあ掻き消せ――“号封雷絡(ごうほうらいらく)紫電一閃(しでんいっせん)”!!」


 叫びと共に金剛杵が騎兵隊のほうへ飛ぶ。金剛杵同士同士から電気の柱が網のように張り巡らされ、そこから放たれる高威力の電圧は一瞬で騎兵たちを灰へと変えた。

 かき消された兵士たちはそのまま光となって空へと消えていく。

 泰伯はその威力の凄まじさに呆気に取られていた。


「おや、どうしたんだい? 余化が如意珠(にょいじゅ)を食らったような顔をしているけれど?」

「……ええと、それは封神演義……というか、殷周伝説ですか?」

「そうそう。ところで哪吒のあれ、どう考えても補充してる描写なく打ちまくっているけれどあれの入った袋ってコスモガンの亜種みたいなものだよね? それとも逐一、打ち込んだ兵士の肉を抉ったり拾ったりして回収しているのかな?」


 この場にまったく関係ない話が始まったので泰伯は困ったような顔で、知りませんよと気の抜けた声で返す。


「ええと、それよりも落ち着いたんでさっきの僕の質問に答えてもらえませんか?」

「さっきというと――ああ、僕が何者かというやつか」


 泰伯は自然体を装いながら頷く。今は右手一本で剣を握っているがいつでも構えられるように手に力を込めていた。

 しかしそんな警戒さえあっさりと見抜かれているような気がしてならない。大人が子供の分かりやすい悪戯を敢えて知らぬふりをしているような余裕が天珠にはある。


「敵ではないよ。それ以上のことは――言ってもしょうがないからね」

「……僕のことを馬鹿にしてます?」

「いやあ、むしろこれでもすごく好意的なつもりなんだけれどね。なにせ君たちはまだ何も知らなさすぎる(・・・・・・・・・)。そんなところに、聞いてもどうしようもない情報の洪水を流し込むのは誠実とは言わないさ」


 そう言われても泰伯はやはり釈然としない。天珠は腕を組んでため息をついた。


「ま、僕が信用出来ないというのなら君のお友達の――今は、船乗りシンドバッドとか名乗っているんだったかな? あいつにでも聞いてみるといいさ。どうせ答えは同じだろうけどね」

「……彼に?」


 唐突に出てきた名前に泰伯はさらにわけが分からなくなってきた。

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