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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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lady hermit_2

 仁吉が山中を奔走するよりも少し前。

 まだ日の明るい時刻である。

 泰伯、彷徨、天珠の三人は予定を変更して熒惑砦跡を目指して歩いていた。道を進むにつれて山道はどんどん狭くなっていき、歩きにくくなっていく。泰伯は平然としており天珠も涼しい顔で歩いているが彷徨は明らかに疲弊していた。


「大丈夫かい彷徨くん? 引き返すかい?」


 天珠が気遣ってそう言ったが、彷徨は強がって笑った。


「へ、へーきですよ。これくらい問題ないです!!」

「そうか。やはり男の子だけあって元気だね」


 天珠がそう言って優美な笑みを浮かべると彷徨は頰を緩めながらも、足に力を込めて歩き出した。

 美人に弱いというのも、それでここまで強がれるなら才能かもしれないと泰伯は思う。

 そうして歩いていくうちに熒惑砦跡に着いた。

 そこには泰伯の思っていたよりもしっかりと砦の跡が残っていた。空堀(からぼり)があってその奥には石積みの塁壁があった。最もその中は閑散としていて雑草が生え散らかしただけの広場という面白みのない場所でもある。

 彷徨はその中で地面に手をついて這い回っていた。


「……何やってるんだお前?」

「いや、地下道ないかなって」

「あるわけないだろ。というか、今お前があっさり見つけられるくらい分かりやすいものがあるならとっくに発掘調査とかで見つかってに決まってるじゃないか」


 泰伯の言うことはもっともなのだが彷徨は不満げな顔をした。


「そんなこと言うなよー。あるかもって思ったほうが楽しいだろ?」

「まあ気持ちは分かるけどさ」

「じゃあほら、泰伯も探そうぜー」


 泰伯はええ、と困り顔をしている。そのやりとりを見て天珠はくすくすと口元を抑えて笑っていた。


「彷徨くんはロマンチストだね。泰伯くんも少し見習ったほうがいいんじゃないのかい?」

「……そうですかね?」

「夢みたいなことは今のうちに楽しんでおいたほうがいいよ。どうせ今に嫌でも現実が押し寄せてくるんだからさ」


 その言葉には年上としての重みがあった。というよりも、たかだか一つか二つ上の人間の言葉と思えず、もっと――年季の入ったようなものを感じたのである。


(この人いくつくらいなんだろう?)


 そんなことを思いはしたが、さすがにそれを口に出すのは失礼なので泰伯は心の中だけにその疑問を留めおいた。


「ん、待って今なんか聞こえたかも!!」


 彷徨が叫び、地面に耳をつける。そんな馬鹿なと思いながら、しかしやがて立っているだけの泰伯にもはっきりと地響きのようなものが聞こえてきたのである。

 それは気のせいなどではない。地震かとも思ったがそういう風ではなく、いくつもの足音のようである。それも人のものではなく、


(まさか、馬蹄の音か――?)


 泰伯にはそう聞こえた。

 冷静に考えればそんなはずはない。馬が複数で接近してくることなどあり得ないのだ。それでももしかして、と思ってしまうのは泰伯が異能の存在を知っているからであり――やがて、それは気のせいなどではなく現実なのだと泰伯は思い知ることになる。

 塁壁から顔を出した泰伯は眼前に三十騎を越える、モンゴル風の服を着て剣を手にした騎兵たちが接近しているのを目の当たりにしたのだ。


(くそ、絶対あれ敵だよな。それも見た目からして……北狄か匈奴あたりの“鬼名”持ちの不八徳が近くにいるってところか?)


 どうすべきか泰伯は逡巡した。彷徨と天珠がいる場で戦うべきかということである。この際、二人に宝珠や傀骸装のことを知られるのは止むを得ないが、しかし泰伯一人で二人を守りきることが出来るだろうかという現実的な問題がある。

 戦うのが難しいならば逃げるべきなのだが、元来た山道を引き返したところでそこに敵がいないとも限らない。


「それならいっそのこと――」

「ここで籠城戦でもするかい?」


 泰伯が独り言のように呟こうとしたその時、背後から天珠が、泰伯の思考を読んだかのように言葉を重ねてきた。

 振り返った時、そこにいる天珠は先ほどまでと何も変わらない様子で穏やかに微笑んでいる。

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