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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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flarebullets like rain_2

 仁吉は勇水を抱えたまま、光弾の発射点と思われる場所についた。しかし周囲を見回してもそこには動く陰は一つもない。


「……逃げられたかな?」

「そうみたいね。何の“音”も聞こえないわ」


 仁吉は小さく舌打ちした。

 先ほどの光弾――それも、山の中から現れたそれは木々の隙間を縫うようにジグザグに曲がりながら進んで来ていたのである。

 どういう仕様なのかは分からないが、それはつまり敵は光弾の軌道を操れるということに他ならない。となると最初から発射点を偽装していたという可能性も考慮にいれなければならなくなる。


「……それで、これからどうしようね?」


 仁吉は勇水に聞いた。

 ひとまず攻撃が止んだのであれば、正直のところ仁吉にはこの状況で敢えて敵を深追いする理由はない。既に覇城たちの乗ったバスも山を下りているだろうし、何もなかったことにしてこのまま勇水とともに下山するということも仁吉は考えた。


「それは、ヒトヨシくん次第ね」

「というと?」

「先ほどまで私たちを狙っていた敵は完全に“音”を隠してしまっているわ。けれど今、この白斗山にはまだいくつかの“音”が聞こえてくるの」

「音? 物音って意味じゃないよね?」


 仁吉に聞かれて勇水は頷く。


「“魄音(はくいん)”と言ってね。人間はみんな、それぞれが異なる魂の音を奏でているのよ。私にはそれが聞こえるの」 


 なるほど、と一応仁吉は頷いたが実のところよく分かっていない。ただ、そういうものがあるということだけは理解した。


「それでその、“ハクイン”とやらは、その音の個人を特定出来るのかい?」

「ええ。今は――泰伯くんがいるわね」


 その名前が出た途端、仁吉は両肩に特大の重りをのせられたような気分になった。


「それと、彷徨くんもいるわ」


 彷徨が誰のことか仁吉にはすぐに分からなかったが、烏丸くんと言われて理解した。


「というかイサミ先生、あの二人と知り合いなのかい?」

「ええ」


 仁吉は遠い目をした。しかし勇水は漢文に詳しく、泰伯もまた漢文や中国史が好きなので気は合うのかもしれないと思った。


「あとは――」


 勇水がそう言いかけた時である。

 仁吉のスマートフォンが着信を告げた。電話の相手は如水である。珍しいと思いつつ、周囲を警戒しながら仁吉は電話に出た。


『悪い仁吉、ちょっと厄介事手伝ってくれ!!』

「……開口一番にそれかよ」

『いや、悪いとは思ってるよ心の底からさ。でも今、マジでこっちも間が悪くてさ』


 如水の声はかなり切羽詰まっている。しかし仁吉としても、話を聞かずにいいよと言える状況ではないためとりあえず内容を聞くことにした。


『ああ、悪いな。とりあえず聞きたいんだけど今から白斗山まで行けそう?』

「――は?」


 腹の底からそんな声が出てきた。


「……おい。もしかしてお前、僕にGPSでもつけてるんじゃないだろうな!?」

『んなことしてないけど……え、まさかと思うけど今いるとか言わないよな』

「そう言えなければどれだけよかったことか」


 これは間がいいと言うのか悪いというのか仁吉には分からないが、先ほど仁吉たちを狙ってきた“鬼名”持ちの敵とおそらく無関係ではないだろう。

 仁吉は諦めて如水の厄介事とやらの話を聞くことにした。


『まあ要約して話すと、今そこにすっげえヤバいアイテムがあるんだ。それを回収してくれ』

「ホントに要約だな!! というかそんなの検非違使でやれよ!!」

『それがやれたらわざわざ部外者のお前に頼まないよ!! うちの親父と蔵碓と桧楯は別件で駆り出されてて蒼天ちゃんとは連絡つかなくて龍煇丸は……』

「龍煇丸は?」

『…………家出中』


 仁吉は手に持ったスマートフォンを思わず地面に叩きつけたくなってきた。しかしそれをぐっと堪える。


「なんであいつが家出してるせいで僕が面倒事に巻き込まれるんだよ!!」

『……そうな。すまん。せめて検非違使から報酬出るようにするから、一つ頼むよ』


 如水にそう懇願されて仁吉は、力なく、分かったと答えた。

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