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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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girl teacher_2

 仁吉はそれからも勇水について行って館内を見て回っていた。勇水は坂弓市の歴史や漢籍についてとても小学生とは思えない程の博識さであり、歴史的な色々なことを時に漢文を引いて説明してくれた。

 始めは子供に目線を合わせるようなつもりで先生と呼んでいたのだが、いつの間にか仁吉は自然と勇水のことを先生と呼ぶようになっていた。


「どうしたのヒトヨシくん?」


 勇水は不意に立ち止まり仁吉のほうを見た。


「ああいや、そういえばイサミ先生は今日は一人で来たのかい?」


 気になっていたので仁吉はそう聞いた。勇水はこくんと頷く。


「おかしなことはないでしょう? 私はもう十分大人ですもの」


 見栄や背伸びではなく、さも当たり前のように語る。その言葉に子供らしさはなかった。


「そうだね。これは、失礼しました」

「ふふ、分かればいいの。ヒトヨシくんは素直でいい人ね」


 そう言って笑う顔にはあどけなさがある。しかし展示品や史料を前にして歴史について語る時の勇水はとても落ち着いていてその横顔は大人びたものであった。丁寧に、諭すように説明する様はまさに教師のようである。

 その後も館内を歩いているうちに二人は覇城、由基と会った。仁吉がいなくなっていたので二人も自由に館内を見回っていたらしい。


「ところで仁吉、その子は?」

「僕の先生」


 覇城に聞かれて仁吉は何の躊躇いもなくそう答えた。


「そうか。仁吉の師とあれば礼を失するわけにはいかんな。自分は仁吉の朋輩(ほうばい)で西山天王山覇城という」


 覇城は仁吉の言葉をまったく疑問に思わず、目を伏せて頭を下げた。

 その行動にしても、いわゆる子供のごっこ遊びに付き合ってあげているというような感じはまるでしない。仁吉が勇水に対して素直な気持ちで先生と呼んだのを察したので、覇城も仁吉の尊敬を疑われることがないようにしようと思ったのである。


「それで仁吉よ。お前はこちらの先生に何を教わっていたんだ?」

「色々だよ。主に歴史のことだね」

「ほう、それは何ともずるいではないか。俺たちは三人で来たというのに、一人だけ博識の教師を見つけて授業を受けているのは抜け駆けというものではないか?」


 覇城は責めるようににやりと笑った。仁吉は少しだけ息を詰まらせてすまないと謝る。

 覇城の後ろで二人のそんなやりとりを眺めていた。


(よくこんな小さい子供を先生って普通に呼べるな二人とも)


 由基からしても二人が勇水に付き合ってあげているという感じはしていなかった。恥も躊躇もなく年下の子供を先生と呼べるのは、他人に教えを乞うのに年齢は関係ないという素直さなのか、それともただ単に変人なのか、どちらなのか由基には分からない。

 分からないまま、勇水の後をついて歩く仁吉と覇城に由基もついて歩いた。

 館内にあるものについてあちこち説明をしてもらう中で覇城と由基は、仁吉が先生と呼ぶ気持ちも頷けた。坂弓市の歴史に纏わることについて勇水はなんでも立て板に水で説明できたからだ。

 しかも単に自分の知識を披露しているだけでなく、仁吉や覇城が何かを聞くとその疑問に対して的確な答えを返してくれるのだ。

 覇城は時には、高明から借りた本を取り出してその内容の解釈を説明してくれと頼むこともあった。

 高明が学生時代に自費出版したという坂弓市の歴史についての本は、高明とその有志が趣味でかき集めた論文集であるので、分かりにくいところがあるのだ。何よりも基本が概説書ではなく論文なので読み慣れていない高校生にとっては難解なのだ。

 しかし勇水はそれを見せられても、覇城の疑問に的確に答えてくれた。


「なるほどな。うむ、しかしこれは借り物であるのだがとても一日二日で返すのが惜しいな。というよりも、繰り返し読みたくなってくる」


 覇城は残念そうに言った。


「高明先生が自費出版したならオリジナルのテキストとかなら残ってるんじゃないか? 先生なら頼んだら刷ってくれそうだけどね」

「それは私も気になるわね。これを書いた人たちは歴史というものにとても真摯に向き合ってきたということが、読んでいればとてもよくわかるもの」


 仁吉が言うと勇水も興味を示した。覇城も、ならばと返しに行く時に高明に頼んでみることにした。


「ところで先生。そのテキストを貰えたらどこに持っていけばいいかな?」


 覇城がそう聞くと勇水は、


「いつか、縁があれば受け取りにいくわ」


 と、答えになっていない言葉を返すだけだった。

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