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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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白斗山の戦い_2

 バスに揺られながら、やがて仁吉、覇城、由基の三人は白斗山の北側にある辰星砦跡にやってきていた。

 木製の柵に囲まれた開けた場所の中にバス停と史料館があり、その奥には武家屋敷風の建物がある。

 しかし武家屋敷風の建物は木造ではあるが見るからに新しく、戦国時代に作られたという感じはしない。仁吉が覇城にそのことを聞くと、


「それはそうだろう。あれは戦後になって作られたものだからな。町おこしの一環で当時の様相を再現して建築されたらしいぞ」


 とのことであった。史料館への入館料を払えばそちらの建物の中にも入れるらしく、その中にも色々と史料や展示品があるらしい。

 三人はまずは史料館から回ることに決め、入り口で入館証を買い中に入った。その中には古い文書や烏丸氏、御影氏由来の芸術品や武具などが展示されている。

 その中のある場所で覇城と由基は足を止めた。

 それはジオラマのセットである。戦国時代が白斗山を精巧に再現されており、各砦ごとの造りや戦いの経過などが音声案内つきで詳しく解説される仕組みになっていた。

 一回の解説が大体十分ほどというかなり作り込まれたものであり、解説する場所ごとにそこにスポットライトがあたり、ジオラマの一部分の地面が回転して兵士の人形が起き上がってくる仕掛けまであった。

 三人は夢中になってその解説を聞いていた。

 そして聞き終えて満足そうな顔をした。そして覇城が、


「うむ、もう一度聞くか」


 と言い出す。由基もそれに頷いたが仁吉は、


「……なんでだよ」


 と呟いた。帰り際にもう一度というならまだ分かるが、聞き終えた直後にもう一度同じ解説を聞きたくなると言うのが仁吉には理解出来なかった。

 しかし覇城は、


「学びて時にこれを習う、また楽しからずや。というだろう」


 と言って由基と共に再び解説を聞き始めた。仁吉は流石に同じものを二回続けて聞く気にはなれなかったので二人に断って先に館内を見て回ることにした。

 館内には他にも白斗山の戦いの経過を説明したパネルがあった。

 先ほどのジオラマの解説では各砦での戦いの経過解説が主であり、戦いが起きた経緯や結末については軽く流されていたので仁吉は足を止めてそれを読むことにした。

 そこには以下のように書かれている。


『領土の伸張と肥沃の土地を東方に求め烏丸氏と衝突した。始め、御影氏は烏丸氏に同盟を求めたがその内容は同盟というよりも隷属を強いるものであり烏丸氏はこれを拒否した。

 御影氏は同盟拒否を口実に攻め寄せ、二氏は交通の要衝である白斗の地で衝突した。

 戦いは一年に及び、その間、御影氏は白斗城を攻め落とすことが出来なかった。しかしここで転機が訪れる。

 御影氏の重臣であり軍事を担当する南千里武安(たけやす)は密かに兵を分散させて烏丸氏の領内に侵入させ、白斗山を無視してその本城たる坂弓城を攻める作戦に出た。

 烏丸氏は抗戦したが、烏丸氏の重臣である芦屋川嘉平(よしひら)は烏丸氏当主、烏丸嘉明(よしあき)を捕らえ、御影氏に内応して門を開いたことで坂弓城は陥落した。

 白斗城を守る武将には坂弓城一帯に屋敷を構えている者も多く、御影氏がその家族を人質に取ったことでやがて白斗城も降伏し烏丸氏と御影氏の戦いは終結した。

 烏丸嘉明は斬首されたが芦屋川嘉平の懇願もあり、その嫡子は烏丸氏の菩提寺である崇禅寺の僧となることで死を免れたのである。

 芦屋川嘉平の降伏には保身の説と、主家の血筋を残すためだったという二つの説があるが未だに明らかにはされていない。芦屋川氏はその後、御影氏の重臣として身を立てるのだが当主たる芦屋川嘉平は白斗城の戦いから一年後に自刃しているからである。その事実を書いたものはあるがその自刃の理由を説明するものが見つかっていない』


 読み終えて仁吉は感心したようにため息をついた。


「……すごいな。知り合いの名字がやたらと多い」


 崇禅寺、御影、芦屋川はそうだし、南千里も坂弓ではよく見る名字である。烏丸についても、仁吉は彷徨と面識はないが確か泰伯の友達にそんな名字の子がいたはずだとは覚えていた。

 最も今のその知り合いが全員、戦国時代の人物の子孫であるかどうかは分からない。しかしどんな形であれ残っているというのはすごいことだと陳腐ながらそう感じたのである。

 さらに仁吉が館内を回っているとそこには御影氏についての史料が展示されていた。

 その中に旗がある。古めかしい、大河ドラマに出てくるような縦長のもので漢字が書かれている。


『天時不如地利地利不如人和

 固國不以山谿之險威天下不以兵革之利』


 漢文であるということは分かったが、仁吉に白文を読むような技能はない。どうにか漢字の意味を拾おうとしたその時、横から声がした。


「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず。国を固むるに山谿(さんけい)の險を以てせず、天下を(おど)すに兵革の利を以てせず」


 少女の声であった。仁吉が声の方を見ると、そこには栗毛色の髪の少女が立っていた。何も見ず旗だけを見てすらすらと漢文を諳んじている。


「『孟子』の一節よ。乱世に武威で名を挙げた一族の旗印としては皮肉に富んでいるけれどね」


 少女は無表情のまま髪を撫でつつ、仁吉を見てそう言った。

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