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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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lady hermit

 バスを降りると彷徨は大きく伸びをした。


「うーん、絶好の登山日和だね」

「さっきまで死にかけてたじゃないかお前?」


 そもそも登山にもあまり乗り気でなかったのだが今の彷徨は先ほどまでとは打って変わって晴れやかな顔をしている。

 その豹変に泰伯は呆れていた。


「いや、さっきはさっき。今は今だよ」

「まあ元気になったならいいんだけど」

「うん、元気元気」


 彷徨は山道と書かれた立て札に従って小走りしながら向かっていく。


(遊園地ではしゃぐ子供みたいだな)


 そんなことを考えながら泰伯はその後を追った。

 山道と言っても二人が登っている道は斜面が緩やかであり丸太で作られた階段で舗装された歩きやすい道である。

 泰伯は早足で進んでいく彷徨を追いかけた。


「そんなにペースをあげるとすぐにバテるぞ」

「大丈夫だって」

「そんなに急がなくても歳星砦までは三十分も歩けばつくから、のんびり歴史の話でもしながらいこうよ」

「え、勉強? やだよそんなの。なんか泰伯とか日輪とかは歴史トークはみんな好きだろみたいに思ってるかもだけどさ、誰も彼もが好きってわけじゃないんだよ?」


 彷徨は口を尖らせている。


「おや、君は歴史が嫌いなのかい?」


 声がした。女性のものである。

 振り返るとそこには大人びた顔立ちの、黒く美しい長髪の女性がいた。山伏の着るような真っ白な法衣を着てその手には錫杖を持っている。

 高校生か大学生くらいという見た目であるが、二人はなんとなく年上だろうと感じた。


「こんにちは。急に話しかけてすまないね。楽しそうな話をしているものだからつい口を挟んでしまったよ」


 微笑みを投げられて彷徨は顔を赤らめていた。その女性は息を呑むような美人だったからだ。


(そういやこいつ、昔から年上の女の人に弱かったな)


 そんなことを思い出しながら泰伯は会釈する。


「山伏修行ですか?」


 女性の服装を見て泰伯は聞いた。


「うん、まあそんなところかな。僕の場合は修行というような大したものではないけれど、山道はこういう服で歩くほうが楽だからね」

「今どき珍しいですね」

「そうかい? まあ、言われてみればそれもそうかな」

「山伏って何ですか?」


 彷徨が声を張って聞いた。その顔は実にだらしなく緩んでいる。


「まあ山に籠もって修行をするお坊さんみたいなものだよ。私の場合は服装だけのほとんどコスプレみたいなものだけれどね」

「そうなんですか。でもとても似合ってますよ!!」

「ふふ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞なんかじゃないですよ」


 彷徨は明らかに先ほどよりも楽しそうである。

 おめでたい奴だという気持ちもあるが、こうまで分かりやすく美人に弱いという人間らしさはいかにも彷徨らしいとも泰伯は思った。


「ところでそこの君……。ええと、なんて呼べばいいかな?」

「茨木泰伯です。好きに呼んでください」

「俺は烏丸彷徨っていいます!!」


 泰伯が名乗ると、我も負けずと彷徨も名乗る。女性はそれを微笑ましそうに眺めていた。


「なるほど。泰伯くんに彷徨くんか。僕は北千里(きたせんり)天珠(てんじゅ)だ。気軽に天珠と呼んでくれ」

「わかりましたテンジュさん!!」

「変わったお名前ですね」


 泰伯は、人の名前にそういうことを言うのは悪いと思いつつも対口にしてしまった。


「泰伯がそれ言うの?」

彷徨(さまよ)うと書いて彷徨(かなた)に比べれば普通だろ。泰山の泰に伯仲叔季の伯なんだからさ」


 そう漢字の喩えを出したが彷徨には喩えのほうがピンと来ていない。しかし天珠はなるほどと頷いていた。


「なるほど。ということは君は長男なんだね」

「はい。だから伯です。安易な名付けですよね」

「ん、どういうことですか?」


 彷徨は天珠のほうを見てそう聞いた。


「伯という漢字には長男という意味があるのさ。日本でいうと長男だから太郎とか一郎みたいな名付けだよ」

「へえ、そうなんですか。テンジュさんって物知りなんですね」

「……僕、確か昔お前に教えたぞこの話」


 泰伯に咎めるように言われて彷徨は、そうだっけ、と首を傾げた。


「それで、泰伯くん。君は歴史には詳しいのかい?」

「詳しい、というほどではないですが趣味ではありますね」

「なら道すがら、ここ白斗山での戦いについて教えてはくれないかな?」

「僕は構いませんが……彷徨はあんまり興味がないんだっけ?」


 泰伯はそこで少しだけ意地の悪さを見せた。にこりと笑って彷徨を見ると、彷徨は首が取れんばかりに大きく横に振っている。


「あるある、すっげーある。教えてください泰伯先生!!」

「うん、いいよ。ならまあ、高明先生みたいにうまく出来るかは分からないけどなるべく噛み砕いて説明してみることにするよ」


 泰伯はそう言って、頭の中の知識を探り始めた。

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