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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter1“*e a*e *igh* un***tue”
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encounter with my tiger_2

 その咆哮は蛇の怪物のものではない。

 直後、仁吉の体は解放されて廊下に投げ出される。


「なん、だ……?」


 見るとその視線の先では、蛇の怪物が――真っ白い虎に喉元を噛みつかれていた。

 それは全身が太陽のように光輝く幻想的な虎である。虎は蛇の怪物に噛みつき、のたうち回る蛇の怪物を足蹴にして遠くへ飛ばすと、ゆっくりと仁吉のほうへ寄ってきた。


『ガルル……』

「……お前は?」

『ガル、ルルルゥ……』

「なにか喋れよ。……いや、虎だから喋らないのが普通か?」


 思考が錯乱している。

 冷静に考えると虎が流暢に話し出したらそちらのほうが異常なのだが、今の仁吉は誰でもいいのでこの状況を説明してほしいという気持ちだった。

 そもそも、目の前に虎がいるという状況も本来であれば危険なのである。しかし仁吉は不思議と、目の前のこの虎からは恐怖や敵意を感じなかった。

 なんとなく、仁吉はその虎の頭を撫でてみようとした。

 虎は前足でその手を払いのける。


「痛った!! 痛いよ!! 俺なんか悪いことした!?」


 虎は唸りをあげながら仁吉の体によじ登り頭にかじりつく。甘噛みなのだろうか、血が出るようなことはなかったが、痛みは普通にある。

 そもそも今の仁吉は蛇の怪物に巻き付かれたせいで全身の骨がひび割れや骨折を起こしており、虎の質量でのしかかられるとそれだけで激痛が走った。


「あ、怒ってる? うん、悪いことしたらしいね俺。ごめん、ごめんって。謝るからせめて降りてくれない?」

『ガルル……』


 仁吉の懇願が通じたのか、単に飽きただけなのかはわからないが、虎は仁吉の頭を解放し体から降りた。

 そんな茶番を繰り広げている間に、蛇の怪物が近くに迫っていた。


「……まずいな、緊張感がどこかにいってたよ」


 元々のダメージが大きいのに加えて、今の茶番で余計に体力を消耗してしまった。今の仁吉はどうにかこうにか立っているだけで、歩くことすら困難な状態である。

 今、もう一度襲われたらひとたまりもない。しかし虎が仁吉の横にいるのを警戒してか、蛇の怪物は一定の距離を保ったまま、それ以上近づいてくることはなかった。


「さて、どうしようかな? あー、あのさ。と、トラッキー?」


 横にいる虎をなんとよんでいいかわからなかった仁吉は、パッと思い付いた虎のマスコットキャラクターの名前を呼ぶ。

 低い、そして少し殺意のこもった唸り声が漏れた。


「あーごめん。気に入らなかったか。じゃあ、虎くん。その……あいつ、倒せる?」


 他力本願は承知の上だが、今の仁吉では逆立ちしても蛇の怪物に勝つことはおろか、逃げおおせることすら出来ない。ならばと思って思いきって頼んでみたのだが、虎は首を横に振った。

 そして、いつの間にか咥えていた赤い札のようなものを手渡す。


「えっと……なんだい、これ?」


 おずおずと受け取っては見たが、何も起きない。

 どうしろというのかと仁吉が考えていたその時だった。虎が、牙を剥いて襲いかかってきたのだ。

 理由はわからない。しかし、全力であることに違いはなく、そしてその牙は仁吉の心臓を噛みちぎった。


 **


「…………あれ?」


 確かに死んだと仁吉は思った。

 胸を喰い破られ、心臓が引きちぎられる嫌な感触を知った。しかし、今の仁吉は五体満足で生きている。それどころか、先ほどまであった全身の痛みすら消えていた。

 そしてその手の中に、白い珠を握りしめていた。

 頭の中で声がする。何者のかも、どんな意味があるのかもわからない。それを仁吉は、おうむ返しに口にした。


「……ぬいつづれ、ほねばみ」


 その言葉を発した途端、白い珠が光を放つ。

 天まで届くほどの光の柱を産み出し、やがてそれは仁吉を飲み込んだ。

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