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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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holiday life of two_2

 ラーメン屋『寂丸』を出た時、彷徨は腹をさすりながら少し苦しそうな顔をしていた。

 彷徨は普通サイズのラーメンに全マシだけだったのだがそれでも満腹である。一方の泰伯は部活終わりなので大盛サイズのラーメンに全マシマシというボリューミーさでもまだ腹に余裕がありそうだった。


「……俺、もう暫く二郎系はいいや」

「彷徨から言い出したのに!?」


 泰伯は思わずそう叫ぶ。今日、わざわざ電車に乗って遠出してまで二郎系ラーメンを食べたいと言い出してきたのは彷徨なのである。


「いやだって……ちょっと、ロスでへこんでたらドカ食いがしたくなってさ」

「ああ、えっと――推しの死で胸にぽっかりと空いた穴は胃袋を満たして埋めるしかない、だっけ? 聞くたびに何言ってるのかわからない理屈だよねそれ」


 彷徨はアニメや漫画などで好きなキャラに何かあった時にはこの言葉を口にしては大食い行脚に泰伯を巻き込んでいる。しかし決まって、誘った彷徨のほうが苦しそうな顔をしており、巻き込まれたはずの泰伯は平然としているのだ。


「いやほら、だってさ……心臓と胃の場所って同じじゃん?」

「違うけど!?」

「あれ? でもだいたい同じだったような……」

「胃袋のほうが上だよ」


 泰伯は呆れたようにそう言う。しかし実際は心臓のほうが体の上部にあるのだがそれを訂正してくれる人間はこの場にはいない。


「というか、まじでちょっと休んでこうか」

「まあいいけど。それより、終わったら白斗山に足運んでみるつもりないかい?」

「……なんで?」


 唐突な泰伯の言葉に彷徨は嫌そうな顔をした。立っているだけでも億劫だというのに、わざわざ山のほうまで足を伸ばしてみようと思えなかったからである。


「いやほら、白斗山って有名な古戦場じゃない。それに彷徨とも縁があるかもしれない場所だし?」

「あー……烏丸氏が負けたとこなんだっけ? いや、でもないよ。あるとしたら榛華ちゃんのほうだからね!!」


 白斗山で戦国時代、烏丸氏と御影氏が戦ったということは前に書いた。しかし彷徨の名字である烏丸は母親の再婚相手のものなので、義父やその実子である榛華ならばあるいは烏丸氏の子孫かもしれないが彷徨には何一つ関係のないことである。

 彷徨は一応知識として知ってはいたが特別歴史好きというわけでもないので自分の名字が土地に由来のあるものに変わっても、まあそうなのかくらいの認識であった。

 むしろ最初に彷徨が烏丸姓になると言った時には泰伯のほうがはしゃいでおり、まるで自分の名字が変わるかのように心弾ませていたくらいである。


「まあまあ、これも何かの縁ってことでさ。それに折角電車に乗って遠出までしてラーメン食べて終わりじゃもったいないだろ?」

「まあそりゃそうかもしれないけどさー」


 泰伯はなおも食い下がってくる。

 こうなった時の泰伯はなかなか引かないことを知っているので彷徨は根負けした。


「……軽く見て回る、くらいならいいよ」

「そうか。それなら――歳星(さいせい)砦のあたりを見て回ろうか」


 よく分からないまま、言われた通りに彷徨はバスに乗り込み白斗山へと向かった。


「というかええと……その、サイセイ砦って何? なんかリサイクルでもしてるわけ?」


 バスの中で彷徨はそんなことを聞いた。


「歳星ってのは木星のことだよ」

「そりゃ古い砦は木で出来てるだろうけどさ」

「ごめんその木製じゃなくてジュピターのほう」

「木星って戦国時代からあったの?」

「あるよ」


 なるほど、と彷徨は話半分に聞いていた。


「で、なんで砦に木星なんてついてるのさ?」

「ええとね、五行思想っていうのがあるんだけど知ってる?」


 当然のように彷徨は知らないと首を横に振る。


「まあ簡単に言うと世界は水、火、金、土、木の五つの要素で構成されており、すべての物はこの五つのいずれかの属性を持って影響しあっているということさ」

「ほうほう」

「この属性というのは東西南北、そして中央を入れた方角にもあり、また惑星にもある。木星は五行だと木の属性になり、木属性を持つ方角は東なんだ。だから山の東側に作る砦を歳星砦と名付けられたってことだよ」


 ふーん、と彷徨は気のない返事をする。あまり興味がないのと、まだ胃がラーメンに圧迫されているのだ。

 もう少し説明をしようかと思ったが彷徨がしんどそうなのを見て、続きはついてからにしようと泰伯は決めた。

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