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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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三得三去

 蒼天たち三人は石碑の下に現れた階段を降りて地下へ向かった。ちなみに入り口は三人が入り終えると自然と閉じていった。

 いちおう、中から先ほどと同じように印を組めば開くことを確認した上で三人は奥へ進む。

 歩きながら、三人は宝珠を展開し傀骸装をした。

 ここから先はいつ敵が現れてもおかしくない以上、当然の警戒である。

 蒼天が兵士を生み出して斥候として先に行かせるかということも考えはしたのだが、それで兵士が見つかって侵入が露見する可能性を危惧してその案はなしになった。

 蒼天の召喚する兵士たちはよくも悪くも一般的な兵士なのである。こと、その知識は蒼天の知識に依存するため異能の罠や索敵網のあるところへの侵入、調査というものには不向きであった。

 三人は石造りの、人二人がどうにか並んで歩けるくらいの狭い通路を縦並びになって歩いている。龍煇丸が先頭、悌誉が後方でその間に蒼天がいるという隊列であった。光源などなく真っ暗な道を、蒼天が出した松明を頼りに進んでいく。

 蒼天の能力は『チャリオットとそれに関する武具、兵士を自由に精製、召喚する』ことであり、松明もその枠に入る。というよりも、これは蒼天の解釈の問題であり、蒼天が有りと思えばかなり自由に多彩な物を作り出すことが出来るのだ。

 隊列については、この三人の中では魔力的な索敵ならば龍煇丸が一番秀でているので先行し、戦闘に長けている悌誉が後方を守る。そして、純粋な戦闘能力においては見劣りするが兵士を召喚することで味方に助勢することが可能な蒼天が真ん中に立って、前後に何か異変があればすぐに援護するための並びである。

 流石にこの状況では龍煇丸も緊張感を持っており、無駄口を叩くことはない。三人は無言のまま、警戒しつつ進んでいった。

 しかし三人のそんな慎重さがから回るかのように、いっさいの罠も敵襲もなく開けた場所に出た。

 そこは、広いということは分かるが、相変わらず光源はない。


「敵の気配はあるか?」


 龍煇丸に聞くがないという。蒼天は兵士を五人ほど召喚した。その全員に松明を持たせ、部屋の全容を照らすように命じた。

 そこで分かったのは、この空間は教室くらいの広さであり、至る所に書簡が積まれている。それらは埃をかぶっており、もう何年も人が立ち入った気配がないということくらいであった。

 辺りを見回しても窓や扉といったものはなく、ここが行き止まりのようである。


「どうする龍煇丸よ?」

「んー。まあ、とりあえずこの、書簡ってんだっけ? 読んでみよっかなーと」

「まあ、それがいいだろうな。何か手がかりがあるかもしれないし」


 龍煇丸の言葉に悌誉は賛同した。しかし、三人だけですべてを確認するというにはあまりにも量が膨大である。書簡は所狭しと置かれているからだ。


「しかし、これだけあると流石に骨じゃの」

「ん、何? ガイコツでも出てくるの?」

「……骨が折れるって意味だと思うよ琉火ちゃん」

「え、本をたくさん読んだら骨折するの?」


 龍煇丸は真顔でそんなことを言った。蒼天は遠い目をして、


「……悌誉姉。日本語って複雑じゃの」


 と、しみじみと言った。

 悌誉は骨が折れるとは、大変であるという慣用句だと龍煇丸に説明する。それで龍煇丸は感心したような顔をしていた。

 しかし実際、大変な作業であることに違いはない。しかも松明の明かりしかないこんな場所で黙々と書簡とにらめっこを続ければ精神に支障をきたすかもしれない。


「ねー蒼天。お前、確か兵士とか喚べるんでしょ? そいつらに手伝ってもらうこと出来ないの?」


 龍煇丸の質問に蒼天は困ったような顔をした。


「……基本は無理じゃ。じゃが、手立てがないわけではないこともないことも……ないことも、ない」

「あるかないかで言え」


 悌誉に厳しめの口調で言われて、蒼天はある、と小さな声で言う。しかしそれには必要なことがあるから暫く外に出ていてほしいと頼んだ。

 仕方なく龍煇丸と悌誉は外に出る。


「何するんですかね蒼天のやつ?」

「……さあな」


 龍煇丸の質問に悌誉はそっけなく返した。しかし実際、見当がつかないのである。

 やがて蒼天が許可を出したので二人は中に入った。そこには、それまで蒼天が召喚していた兵士とは毛並みの違う、中国風の服を着た痩身の男が正座して書簡を呼んでいた。


「……あちらは?」


 悌誉が聞く。


「余ら三人を足して十倍したくらいの処理能力のある者ゆえ、安心せい」


 その言葉に龍煇丸は無邪気に、頼もしいね、などと笑っていたが悌誉は眉をひそめていた。その人物が誰であり、蒼天が何をしたのかのおおよそを察したからである。

 そうして三人が話していると不意にその男は手を止めて蒼天のほうを強く睨んだ。蒼天は背筋をピンと伸ばし、


「さあ、余らも仕事じゃ。もともとこれは余らの問題であるからの」


 と言うと手近な書簡を手にして真剣な顔で向き合い始めたのである。


「ねえ悌誉さん。あれ、どゆこと?」

「……琉火ちゃんは蒼天の“鬼名”知ってるんだっけ?」

「まったく知りません。てか、たぶん聞いても分かんないかなーって」

「まあ、それなら具体的なことは省くが、あいつの前世はとある国の王様でな。たぶんだが、その臣下を喚んだんじゃないかな?」

「あんま臣下が主君を見る目じゃなかったような気がするんですけどね?」


 龍煇丸は率直な感想を口にする。その言葉に悌誉は、


「まあ、君主と臣下にも色々あるのさ」


 と言って、自分も書簡を手に取った。

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