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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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陰陽五行印

 蒼天、龍煇丸、悌誉は三人で登山道を歩いている。先頭を歩いているのは悌誉で、蒼天は龍煇丸と横並びで腕を組んでいる。

 二人が腕を組んでいるのは、龍煇丸が飛び出していかないようにである。悌誉が持っていた通信札を全員に渡したうえでこの処置であった。


「ここまで厳重にする必要あんの? 俺だってガキじゃないんだぜ?」

「今日日なら子供のほうがしっかりしておろう。おぬしの方向感覚は基本的に信用しておらんからの」


 龍煇丸は、怪異がどこにいるかなどの探知は問題ない。しかしそういった異能や戦闘が絡まなければまるで駄目だということを蒼天は一月ほどの短い付き合いで理解していた。

 そして他人に場所を教えるとなるとより悪化する。

 情報が左右、時には上下まで混ざり始めて、しかも龍煇丸がどの方角を見ているかが全く分からないので突き止めようがないのだ。

 そんな龍煇丸が万が一にも山中で一人になってしまえばその消息を追うことは困難である。だから、極力そうならないように蒼天と悌誉は意識を払わなければならなかった。

 龍煇丸は納得がいっていなかったが、二人には協力してもらっているのでとりあえずは大人しくしている。

 そうして山道を歩くことおよそ一時間。

 三人は目的地である太白砦についた。砦といっても、山道の真ん中に木製の門があるばかりである。


「のう悌誉姉。これのどこが砦なんじゃ?」

「正確には砦跡だからな。昔はこの奥には左右に櫓があったらしいが今はもう残ってないよ」

「それでも櫓があるかないかの違いなんだ。あんがいしょぼいんだね」


 悌誉の説明に龍煇丸はがっかりしたような声で言った。砦と聞いたからにはもっとしっかりとした石積の壁や堅牢な建物があるのを想像していたのだろう。


「山城なんてそんなもんだろ。それでもこの山は山道以外は登りにくいし、山頂へ続く四方の道を封鎖出来る施設があるだけで十分だった、らしいぞ」

「ほう、悌誉姉は詳しいの。流石は南千里の末裔じゃ」


 かつて坂弓を治めていた大名――御影家には千里三家と呼ばれる三つの有力氏族がいた。そのうちの一家が南千里なのだ。


「だから私は直系じゃないって言ってるだろ。それに、私が詳しいのはただの趣味だ」

「それはそれでなかなかに通な趣味だね」


 龍煇丸は感心したように言う。龍煇丸は御影家とは縁があるが、坂弓の歴史もに御影家の歴史にも興味を持ったことはなかった。


「まあ、そうかもな。それで琉火ちゃん。ここからどうすればいいんだい?」


 悌誉に聞かれて龍煇丸はスマホを見る。謎の情報提供者によると、その門を越えて太白碑のところへ行け、と書いてあったらしい。

 太白碑とは太白砦の武器庫がかつてあった場所にある石碑のことである。門を越え、山道から脇道にそれるように木で作られた階段を登ると、公園の砂場くらいの広さの場所に『太白碑』と彫られた石碑がぽつんと立っていた。


「それでどうするのじゃ?」

「んとね……。陽火、陰火、陰木、陽金にて開くだってさ」


 蒼天と悌誉は首を傾げた。何のことだかさっぱり分からなかった。何かの暗号だろうかと思い文面を見せてもらおうと思ったが、龍煇丸はスマホをしまうと両手を組んで何度か不思議な動作をした。

 すると石碑がゆっくりと一回転し、三人の目の前の地面が扉のように開いて、地下へと続く階段が現れたのである。


「のう龍煇丸、なんじゃそれ?」

「ん、ああ今の? これ、陰陽五行印(いんようごぎょういん)っつー仙術の一つだよ。印っていう、手の組み方に木、火、土、水、金の五種類があって、さらにその組み方を上に向けるのが陽、下に向けるのが陰。合計十種類の印を組み合わせで色んな術を使えるってやつさ」


 蒼天と悌誉はその説明を感心したように聞いている。

 しかしそこで蒼天は、悌誉も宝珠の他に術式を持っているではないかと聞いた。


「ああ、私のあれは琉火ちゃんが言ったのとは全くの別物だよ」

「兵法書……というか『孫子』の語句を術式にしたものじゃよな?」


 悌誉は頷く。龍煇丸は、そういうものもあるのかという顔をしていた。


「うちの兄貴が聞いたら興味持ちそうだな。今度教えてやってよ」

「副会長にか?」

「うん。陰陽五行印は兄貴の専門だからね。俺も兄貴から教わって一通り印の形が分かるだけで実戦じゃからきしなんだ。つーか、両手ふさいで炎だの水だの出すくらいなら殴ったほうが早いし楽だからね」


 まあ龍煇丸はそうだろう、と二人は心の中で思った。

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