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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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見義不為、無勇也

 次の日の朝七時。

 澄み渡る晴天の下、白斗山の山道入り口に蒼天、龍煇丸、悌誉はいた。


「気分サイコー」

「城攻めに来たみたいじゃなー。テンション上がるのー」


 気力が無駄に漲っている。はしゃぐ龍煇丸と蒼天を見て悌誉はそう感じた。

 二人は昨夜、夜遅くまであれこれと話し込んでいた。しかし今朝は悌誉よりも早く起きており、悌誉が目を覚ました時には既に着替えて出発の準備を終えていたのである。

 しかも、山にいくと聞いていたので悌誉は学校指定の青い長袖長ズボンのジャージを着ているのに対し、蒼天と龍煇丸は黒セーラーとズボンスタイルの黒ブレザーという登山を甘く見切った服装であった。


「さ、いざ行かん。うーん、しかしいいのうこの感じ。商丘を囲んだ時のようじゃ」

「負けるやつじゃないかそれ」


 蒼天の前世ネタに悌誉がすかさずツッコミをいれる。冗談でも不吉なことを言わないで欲しいと心から思った。

 しかし龍煇丸は何かを思いついたようで、急にしんみりとした顔をした。


「ねえ蒼天。俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。故郷に帰って家建ててさ」

「む、いかん龍煇丸。ここは余に任せて先に行け!!」

「流れるように雑な死亡フラグを乱立させるな!!」


 二人は嬉々としてそんなことを口にし始める。悌誉は胃が締め付けられるような心地がした。

 その後も二人は、山道を歩きながらふざけてばかりいるので悌誉はいよいよ帰りたいと思い始めた。


(絶対こいつら、怪しげなスイッチは即座に押すし、曰く付きの廃病院とかに肝試しに行くタイプだろ。ホラー映画の導入で死ぬような性格してるよな)


 しかし、それでも放っておけないのもまた悌誉の気質であった。


「それで琉火ちゃん。まずどこに行くんだ?」

「えっとね……。山の――西側の、太白(たいはく)砦ってとこの門だってさ」


 龍煇丸はスマートフォンを取り出して読み上げた。

 悌誉は急に冷静になって聞く。


「あのさ。ここ、山の東側だけど?」


 白斗山には東西南北に山道がある。そしてそれぞれの山道の途中に、かつて烏丸氏が防衛基地として作った砦の跡が残っているのだ。

 しかし目的地が真逆だと聞かされて龍煇丸は首をひねる。


「……のう悌誉姉。言い忘れてたんじゃが、実は此奴は筋金入りの方向音痴での。間違っても先頭を歩かせたらダメなタイプじゃ」

「そういうことは先に言え!!」


 悌誉が蒼天に怒鳴る。その怒声は白斗山の木漏れ日の中に響き渡った。


「……というか琉火ちゃん。今さらだけどそれ、どこ情報? 検非違使の探索網、とかだよね」


 悌誉は恐る恐る聞いた。今の悌誉は龍煇丸のことを全く信用しておらず、その言葉のすべてを疑っている。


「昨日、俺のスマホに来た差出人不明のメール」

「少しは疑え!!」


 悌誉は確信した。如水と龍煇丸の父が、龍煇丸が鬼方士(ガイファンシ)の捜索に行くことに反対した理由は過保護だからではなく、その情報の出どころが怪しすぎるからだと。


「まあ流石に俺だって馬鹿じゃないよ悌誉さん。明らかに怪しいし、罠か何かだろーな、くらいは思ったさ」

「……ああ、何。もしかして裏取れてる話だったりするのかな?」

「ううん。罠だと思ってるから、罠のつもりで飛び込んでくの」


 やはり昨日の時点で如水に連絡しておくべきだったと、悌誉は心の底から後悔した。

 ちなみに蒼天はその横で、


「うむ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、というからの。罠だと分かっておるならそれでよい」


 と腕組みして頷いている。


「しっかりしろ蒼天!! お前そんな奴だったか!? 曲がりなりにも楚の荘王がそれでいいのか!! 今のお前の思考、城濮(じょうぼく)で負けた子玉(しぎょく)に近いぞ!!」

「悌誉姉は楚のことが嫌いな割には楚の故事に詳しいの?」

「うるさいな!! とにかく、お前らが行くなら私は力ずくでも止めるぞ!!」


 悌誉は今にも懐から宝珠を取り出しそうな勢いである。蒼天と龍煇丸は顔を見合わせた。そして肩を組み、悌誉に背を向けて相談を始める。


「なあどうする蒼天? 悌誉さんが乗り気じゃないならまあ仕方ないかなーって気もするだけど、言いくるめられそう?」

「悌誉姉ってけっこう強情なところがあるからの。どちらかと言えば、おぬしにかかっておる」

「ん、俺?」

「うむ。おぬしが戦いたい、楽しそう以外の理由で罠でもいいから確かめておきたいという理由を提示するのじゃ。それが悌誉姉の情に触れれば悌誉姉は助けてくれる。そういう面倒見の良さがあるからの」

「えー、でもそれだとなんか騙してるみたいじゃない?」

「騙せとは言っておらぬわ!! というか、嘘ついて悌誉姉を危地に向かわせようとするなら余が先におぬしを消すぞ!!」


 蒼天は過激なことを言ってから、真剣な顔をして見せた。


「口先で色々と言ってはおるが、おぬしがガイファンシとやらに思うところがあるのは本当なのであろう? それが恨みなのか、何か気がかりがあるのかまでは分からんがの。その名を聞けば捨て置けぬのではないか?」


 その言葉には龍煇丸も、まあね、と笑みを消して頷く。同時に、はっとした表情を見せた。


「え、もしかして蒼天がついてきてくれた理由ってそれ?」

「他に何があると言うのじゃ。余には笑いながら危地に飛び込んで行く趣味はないからの。そこに向かうより他に道がないのであれば笑いながら進んでいく、というだけのことじゃ」

「別に無理に来なくてもよかったんだぜ?」


 龍煇丸は今さらながらにそう言った。


「そういうわけにもいくまい。おぬしには忠江のことで恩があるし、一人で行かせて何かあれば桧楯や詩季にあわせる顔がないからの」

「蒼天、お前いい奴だな」


 龍煇丸はしみじみと言う。

 そしてそんな話をしている後ろでは、悌誉が二人の会話の一部始終を聞いていた。

 そして、


「……そうならそうと、最初から言ってくれよな蒼天」


 と、諦めた顔をしていたのである。

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