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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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the wheel turner

 仁吉と泰伯が歴史研究会の講義を受けているその頃。蒼天は駅前のショッピングモール『ヒラルダ』にいた。

 玲阿の部活終わりを待って合流して、忠江もいれて三人で食事をしようと約束しているのだ。

 検非違使の活動を手伝うようになってから蒼天は経済面に余裕が出来た。といってもそのことを知った悌誉から無駄遣いはしないようにと戒められているので、それなりに気にしてはいるが、以前ほど切り詰める必要もなくなったのは気楽である。

 悌誉には家賃を入れるという申し出もしたのだが、そういうことはしなくていいとはっきりと断られてしまった。

 蒼天としてはありがたいような申し訳ないような気持ちである。しかし悌誉はこうと決めたら頑ななので、蒼天としても強引に押し切ることは出来なかったのである。


(そうじゃ、後で何か悌誉姉に土産でも買って帰るとするかの)


 そんなことを考えながらモールの中をぶらぶらとしている。ちなみに忠江は何か用事があるらしくてまだ来ていない。

 その時にふと蒼天は知り合いを見つけたので声をかける。


「おう桧楯、何しとるんじゃ?」

「ひやっ!?」


 蒼天は軽く肩を叩いただけなのだが、その相手――南茨木桧楯は驚きの声を上げた。


「……そこまで派手にリアクションすることなくない?」

「な、声くらいかけてくださいよ蒼天さん」

「かけたが?」

「ほぼ同時じゃないッスか!?」


 桧楯は抗議したが、そこまで言われることだろうかと蒼天は思った。しかしまあ、悪いとは思ったので軽く謝る。


「何しとるんじゃ?」

「いや、なんとなく暇つぶしッスよ。蒼天さんこそ何してるんスか?」

「玲阿と忠江と夕飯を食べに来ただけじゃ。おぬしも来るか?」


 そう言われて桧楯は、


「いいんスか?」


 と遠慮気味に言った。しかし蒼天は笑顔で、かまわんと頷く。玲阿と忠江もそう言うだろうという確信が蒼天にはあったからだ。


「まあ、待ち合わせにはまだ時間があるからもう少し暇つぶしするかの。どこか行きたいところとかあるかの?」

「あー、じゃあペットショップ行っていいッスか?」


 蒼天は頷き、二人でペットショップに向かう。その道中、ふと思い出したように桧楯が聞いた。


「そういや最近、うちの姉……どうッスか?」


 桧楯の質問はいまいち要領を得ない。具体的に何を聞きたいのか蒼天は聞き返した。


「その……おかしなところとかないッスかね? なんか隠し事をしてるというか、こそこそ何かやってるような感じが」

「いつも通りじゃと思うがの」


 龍煇丸とはたまに検非違使の任務で一緒になることがあるが、蒼天には特におかしなところがあるようには思えない。


「じゃあ気のせいッスかね? なんか様子がおかしい気がするんスけど」

「男でも出来たのではないか?」

「あんなのと付き合う人なんかいるんスかね?」


 桧楯はさらりと毒を吐く。色々と強引だったり破天荒なところが多いのは認めるが、流石に少し気の毒になった。


「まあ見てくれはよいからの。普通にモテるのではないか?」

「男子ってのは、顔がよけりゃあんなスズメバチみたいなのでもいいもんなんスかね?」

「ほう、スズメバチか。面白い喩えじゃの」


 そう言われると、獰猛で攻撃的で素早いところはぴったりかもしれないと思った。


「のう桧楯よ。おぬしは他人のことを、そうやって何かに例えるのはよくやるのか?」

「まあ、たまにやるッスね」

「ほう、なら余はなんじゃ?」

「ハムスター」


 桧楯は即答した。蒼天は抗議の声を上げる。


「他に何かもっと、いい感じのはないのかの? ライオンとか虎とか狼とか!?」

「じゃあ……モルモットあたりッスかね?」

「げっ歯類から離れてくれんかの?」


 そう言いながらも、前に悌誉との戦いの中で桧楯にハムスター呼ばわりされたことを思い出す。その時はあまり気にしてはいなかったが、面と向かって言われると少し凹んだ。


「ちなみに、余のどのあたりがハムスターなんじゃ?」

「ちっさくて偉そうなところッスね」

「……はむ」


 ばっさりと言われてしまい、思わず蒼天はそう呟いてしまった。

 そんな話をしているうちにペットショップに着く。桧楯はもうその話は忘れて猫のコーナーを見に行ったが、蒼天はまだハムスターと言われたことのショックが抜けきらず、気がつくとハムスターのケージが並んでいるところの前に立っていた。

 その中の一匹がからからと車の上で走っている。くりくりとしたつぶらな瞳と、鮮やかな灰色の毛並みを見つめているうちに段々と蒼天はそこから離れられなくなってていた。

 そして――。

 帰宅した蒼天を悌誉が迎える。しかしそこには玲阿、忠江、桧楯もいた。


「おや、いらっしゃい」


 特に疑問にも思わず悌誉は三人に声をかける。だが蒼天は気まずそうな顔をして両手を後ろに回している。

 そして――手に持っているプラスチックのケージを悌誉の前に出した。その中には灰色のハムスターが入っている。


「……すまぬ、悌誉姉。買っちった」


 蒼天は、か細い声で言った。

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