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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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中国古代史考:匈奴

「で、まあ趙国は胡服騎射によって、少なくとも対匈奴対策についてはそれなりの成果を挙げた。さらに戦国時代の末期には趙に李牧という名将が現れ十万の匈奴軍を撃退している」

「万が最低単位なのはもう突っ込みませんよ……」

「そうしているうちに秦の始皇帝が中国を統一した。始皇帝は先ほど言った通り長城の増設をし、さらに蒙恬(もうてん)という将に命じて匈奴を北へ追いやった。だが始皇帝が死に蒙恬も死に、さらに中国では楚漢戦争と呼ばれる大規模な争いが起きた。このあたりの詳細は省くが、要するに中国は乱れたので国外の匈奴に構っている余裕はなくなり、秦によって追いやられた匈奴が挽回してきたというわけだ」

「へえ、匈奴は内ゲバで弱体化とかしなかったんですか」


 少し感心したように仁吉は言う。


「いや、したさ」

「……本当にどこもかしこもそうなんですね」

「まあ、匈奴の場合は正確に言うと骨肉の権力争いなんだがね。匈奴の王は単于(ぜんう)というのだが、当時の単于は跡継ぎに定めていた長男よりも後妻が産んだ次男を可愛がり、敵対している部族に長男を人質に出してその部族を攻めるという行動に出た」


 うわあ、と仁吉は呆れたような声を挙げた。


「それってつまり、その長男を殺そうとしたってことですよね?」

「ああ。しかしこの長男は逃げて帰った。そして自分に忠実な部下を作り上げ、ついに父と弟、継母を殺して単于に即位した。これが冒頓(ぼくとつ)単于という人物だ」

「内部で争いが起きた結果、有能なリーダーが勝ち残って国や組織を強くするのもまた歴史ではよくあることですからね」

「……そういうの、蠱毒って言うんじゃないのか?」


 泰伯の言葉に仁吉は眉を細めた。

 泰伯は苦笑いしながら、まあそうとも言いますかね、と言葉を濁した。


「それで、蠱毒の勝者たる冒頓単于は北方諸民族を撃退、糾合、服属させて北に遊牧民の王国を作った。そしてついに乱が落ち着いた中国に侵攻してきたわけだ。これを迎撃するために親征したのが漢の劉邦だよ」

「あれ、秦じゃないんですか?」

「秦は十五年で滅んだよ。ちなみに少し余談を挟むと、先ほど言った楚漢戦争とは秦を滅ぼした項羽、劉邦という人物たちによる次期皇帝をかけた争いだと思ってくれればいい。その勝者が劉邦であり、劉邦が建てた王朝が漢だ」


 そう説明しながら高明は、『劉邦』『漢』と黒板に書く。


「しかし劉邦は匈奴に敗れた。そして命からがら逃げだしてきた。この苦い経験から、漢王朝は匈奴に対して和平政策を取るようになった。それも、単于と兄弟の契りを交わそうといってへりくだったんだ。以降の漢の皇帝もその方針を踏襲した。真っ向から匈奴と対立することを避けたんだ。それは王朝を存続させるための現実的な方針であり、同時に遊牧民族への敗北宣言でもある」

「ちなみにそんな和平を結んではいても、匈奴は場合によっては普通に漢に侵略してきます。ですが局地戦になることはあっても、漢はあくまで匈奴との和平を維持し、へりくだった態度を取りながら貢ぎ物を送り続ける政策を続けました」


 そう補足してから泰伯は、


「ところでこの説明、どこまでするんですか?」


 と高明に聞いた。


「なんだかんだでもう夕方ですし、匈奴の話を本格的にし始めたら四世紀くらいまでいきませんかね?」

「……今のこの話が何世紀なんだよ?」

「紀元前二世紀から紀元前一世紀です」


 そう言われて仁吉はうんざりとした顔をした。

 自分から聞いておいて申し訳ないという気持ちもあるにはあるのだが、思った以上に情報量が多くてしんどい、というのが本音である。


「どうにか、そこそこ切りのいいところで終わらせられませんかね? できれば、世紀をまたぐ前に」

「そうだな。ならば、漢の武帝の代のあたりまで話すとしようか。もうこのすぐ後の話だし、『史記』の記録の終わりとも重なっていてちょうどいい」


 何がちょうどいいのはか分からなかったが、それでお願いします、と仁吉は頼んだ。

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