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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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中国古代史考:胡服騎射

「胡服騎射というのは、胡服を着た騎兵ということだと思ってくれ」

「胡服って……ええと、胡――蛮族の服ってことでいいんですか?」

「ああ。騎馬民族的な衣装のことだ。当時の中国には騎兵というものがほとんどなくてね。軍の基本戦力は戦車――チャリオットだったんだ。そしてそもそも馬に跨るという行為は野蛮と見なされていた」


 それは少し意外だと仁吉は思った。

 馬を使った移動手段となると、まずその上に乗ることから始めて馬車などのほうが後から出来たものだと思っていたからだ。


「しかし武霊王はそんな慣習を打ち破って騎兵部隊を組織した。というのも、武霊王の趙という国は北であり、匈奴を始めとする遊牧民の被害が特に多い地域だったのでね。しかも国家には山間地帯が多く、チャリオットよりも騎兵のほうが何かと都合が良かった」

「なるほど。でも、それまで馬に乗ったことのない人間ばかりのところで急に騎兵の軍隊なんか作れるんですか?」

「いいや。ここが胡服騎射のもう一つの要点でね。わざわざ胡の服を着たのは、遊牧民族との融和政策も兼ねていたんだ。要するに、こちらから習俗を相手に合わせて歩み寄りを図ったわけだ。だから胡服騎射改革当初の趙の騎兵部隊というのは、そういう民族との混成部隊だったと思われる」

「というか趙には普通にチャリオットも残ってましたし、趙の兵士の騎兵というのは対外的に、これからは遊牧民族と仲良くやっていくという他国向けのパフォーマンスの意味合いが強かったんじゃないですかね?」


 泰伯は自分の見解を語る。高明はそれに頷いた。


「そうだろうな。武霊王は戦国時代中期の人で、それはつまり東西に斉、秦という強国がいた時期だ。南に目を向ければ魏、韓という国は同盟相手としては心もとなく、東西の斉も秦も野心的な国である。これらに対抗するために武霊王は勢力の伸長を北に求めた」


 そう説明されると理屈としては分かる。


「そして趙は一躍強国に……なったのだろうか?」


 しかしその結びの言葉を口にしながら、高明は疑問符を浮かべた。


「え、違うんですか?」

「いや、まあだいたい概説書や歴史本などにはこう書かれることが多いんだ。茨木くんもそれは分かるだろう?」


 泰伯ははい、と頷く。


「しかしだね。あの頃の趙が強国かと言われると――どうも違うような気がするんだ。秦、斉と比べると一段落ちるというのだろうか」

「その感覚も分かりますよ。強いとも弱いとも言えないような立ち位置ですよね」

「……野球で例えるとどんな感じだ?」


 仁吉はそう聞いたが、しかし泰伯は野球に詳しくないので高明に振った。高明は腕組みして少し考えてから、


「そうだな……。万年Bクラスの球団がAクラスに入り込めはしたが、ほとんど優勝することはないというようなところだろうか?」


 と説明した。


「……先生、なんか現実の球団思い浮かべながら言ってませんか?」


 仁吉が目を細める。高明はバツが悪そうな顔をしながらも、


「……そんなことはないよ」


 と答えた。

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