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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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中国古代史考:春秋後期

「呉越というと……呉越同舟の? その呉越でいいんですよね?」


 中国には同じ国名が何度も出てくるという話を聞いて仁吉は不安そうに聞いた。しかし高明は頷く。


「呉越の争いは春秋時代の中でも有名だと個人的には思っているよ。呉越同舟もそうだし臥薪嘗胆という故事成語もここで生まれた。色彩に富んだ実に魅力的な時代と言えるだろう」

「ああ、そう言えば……屍に鞭打つ、もこの時でしたかね? 確か前にその人の話を読みました」


 それは図書室で『新学期で弾む心に!! 春に読みたい復讐譚ベスト5』という企画が行われていた時に『史記列伝』を読んだ時の記憶である。


「ああ、伍子胥だな。楚に平王という暴君がいて、理不尽に父と兄を殺されたために呉に走った。そして復讐のために呉を強国とし、その兵を使って楚を攻めたんだ。そのせいで楚は弱体化した」

「んじゃ楚が滅びて南じゃ呉が強くなったってことですか?」


 如水が聞くと高明は、


「いや、呉のさらに南で力を伸ばした越という国に滅ぼされた」


 とあっさりと言った。


「栄枯盛衰が激しい国ですね」

「というか、中国の南って魔境すぎませんか?」


 しみじみと紀恭は言い、杖杜は目を細めた。後何回、南から新たな国が台頭してくるのだろうかという顔をしている。


「でも逆に、南のほうで旧勢力と新興国が争っているってことは、北の晋がその間に力を蓄えてるんじゃないんですか?」


 仁吉は素直な意見としてそう言った。

 しかし泰伯が仁吉の肩に手を置き、真剣な顔をして言う。


「いいですか先輩」

「……なんだよ?」

「外敵のいなくなった強国で起こることはこの世に二つしかありません」

「……なんだ?」

「内ゲバと下剋上です」


 泰伯はとても真面目な顔である。仁吉はゆっくりと、そんなわけないですよねという視線を込めて高明のほうを見た。

 しかし、


「まったく茨木くんの言う通りだ」


 と泰伯の言葉に同意した。


「……馬鹿なの?」

「権力を手にした人間とはいつの時代も愚かなものさ」


 仁吉の言葉に高明は冷ややかな声で答えた。


「晋では六卿(りくけい)と呼ばれる六人の大臣が国を運営していてね。やがて国内で有力者同士の争いが起こり、韓、魏、趙という三つの家が残り晋の国土を三分割して国となった」

「むしろ、まだ外敵がいるのに権力争いを始めて国ごと滅ぼすようなことはせずに、ちゃんと外敵の弱体化を待ってから権力争いを始めたり、晋の君主筋を滅ぼしてないだけ良心的なほうですよ」

「砂上の楼閣や沈みかけの船みたいな状況下でも平気でパワーゲームを始めた例なんて世界にいくつでもありますからね」


 高明の言葉に泰伯と杖杜は、自然な流れだと言わんばかりにしみじみと言う。


「というか、呉と越の話は晋と楚の争いに比べてかなりあっさりでしたね」


 如水に言われると高明は、まあなと頷く。


「先ほども言った通り、その中で起きた出来事はどれも非常に面白く、魅力的な時代ではあるんだ。しかし春秋時代の移り変わりを説明するにあたっては、呉が強勢となり、やがて越が強勢になって滅んだ、くらいの説明で事足りてしまうんだよ。興味があるならばまた日を改めて呉越の戦いの講義をしてもいいがね」

「あー、まあ、機会があればってことで」


 如水は言葉を濁しつつやんわりと断った。

 ここまでの話がすでに如水にとってはかなり濃かったので、すでにかなり自分の理解の許容量を超えたと思っているからだ。


「まあそして中国は、晋から分かれた三国と楚、斉、秦、燕という、いわゆる戦国の七雄と呼ばれる大国が相争う戦国時代に突入するわけだ。他にも細々と国は残っているのだが、主な国となるとこの七国だな」


 高明はさっくりとした位置関係と共に今挙げた七国の名前を黒板に書いた。


「それでその、戦国時代ってのはどんな時代なんですか?」


 如水に聞かれて高明は少し考え込んだ。どう説明するかに悩んでいるのだ。

 しかしやがて、方針を決めたようで口を開く。


「私の解釈ではあるが、戦国時代は大きく、前期、中期、後期、末期に分けてみたほうがいいだろうと思う」

「末期っていつですか?」


 泰伯が聞いた。この中で一番詳しいだけに、高明の見解がどういうものか気になったのである。


「秦王政が即位してから統一までの時期だよ。済西の戦いにおける斉の凋落から後を後期とすると、白起の大攻勢と范雎の外交政略による六国の衰弱と、統一政策を打ち出した秦王政の侵略戦争が一括りになってしまう。どちらの時期も秦が強いことに違いはないがそこを纏めてしまうのは個人的に違うような気がしてね」

「なるほど。それはそうかもしれませんね」


 泰伯は納得して頷いたが他の四人は何のことだかさっぱり分からなかった。


「ああ、すまない。ちゃんと順を追って話すとも」

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