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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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like the water_2

 如水の言葉に我慢が限界に達した。

 人前であるので暴力に訴えることはしなかったが、代わりに如水の靴を思い切り踏んだ。


「いった!! 痛いじゃねえか」

「それはよかった。痛めつけてやろうと思って踏んだんだからな」


 仁吉は険しい顔をしている。

 その怒りは、半分は如水へ向けたものだがもう半分はこの場にいない龍煇丸へのものであり、その八つ当たりである。

 仁吉が龍煇丸に告白されてそれを断ったのは事実であるが、それをあっさりと身内に話す龍煇丸にも、それをこの場で普通に言う如水にも苛立っていた。


「そんな怖い顔するなよ仁吉。若いうちから眉間にシワばっか作ってると強面が張り付いちまうぞ?」

「生憎と手遅れだよ。身内公認の仏頂面でね」


 投げやりにいいながら仁吉は足を離した。


「それで如水、お前は結局何してるんだ?」

「まあ、ちょうどその琉火(るか)に用があったんだけどあいつもう帰ったみたいでさ」

「なるほど」

「んで仁吉は?」


 聞かれた仁吉は答えようとして、ふと思った。そして歴史研究会の講義のチラシを如水に見せる。


「お前こういうの興味あるか?」

「おー、なんか面白そうだな。なんだ、人集め頼まれたのか?」


 如水は食いついてきた。

 歴史研究会の人間からではないが、頼まれたようなものなので仁吉は、まあそんなところだと頷く。


「ま、今日は暇だからいいさ。付き合ってやるよ」

「いいのか?」

「ああ。というか、普通に俺もキングダム好きだし」


 如水がそう言ったので二人は一緒に理科室へ向かった。


「そういや仁吉、お前も傀骸装(くがいそう)出来るらしいな?」


 如水が思い出したように聞いた。


「そういやお前も検非違使らしいな?」


 仁吉も話の流れで思い出したので如水に聞く。

 如水は二年の秋まで副会長をやっており、本来ならばそのまま生徒会長になるはずだった。しかしそうならなかったのは家の事情だと覇城から聞いている。

 その家の事情というのは検非違使のことなのだろうと今ならば仁吉は思う。同時に、


(蔵碓のやつはなんで検非違使やってるのに生徒会長兼任しようとか思ったんだよ)


 とも思い、呆れていた。

 検非違使の人員的にも収支があっていないだろう、と強く思う。


「仁吉はなんで傀骸装なんか持ってるんだ? あれ、かなり珍しい技術だって聞いてるんだが?」

「……そんなことは僕も聞きたいね。未だに分からないことだらけなんだよ」


 その言葉は嘘ではない。

 むしろ如水の問いかけの答えは仁吉こそが一番求めているものである。


「そういうもんか? ま、確かに先天性の素質だってのはうちの大叔父も言ってたしさ。すまん、変なこと聞いたな」

「別にいいさ。お前にも色々とあるんだろ。というか――この学校、傀骸装持ちがちらほらといるんだけどさ。僕含めてそういう人間って検非違使の中ではどういう扱いなんだ?」


 気になったので仁吉は聞いた。

 龍煇丸がどのくらいのことを如水に話しているかは分からないが、少なくとも龍煇丸が把握しているだけで仁吉の他に泰伯と蒼天という二人はいる。 

 そういう人間はどういう扱いをされるのだろうかと仁吉は疑問に思った。

 仁吉にも泰伯にも蒼天にも、この力を使って悪事を働こうというつもりは毛頭ない。

 しかしそれはあくまで個人的な思想であり、他の人間がどう思うかはまた別の問題である。

 原理不明で自然発生した、超常的な力を持つ人間というのは傍目に見れば脅威だろう。とりわけそれが、異能を用いて怪異から人知れず日本の治安を守っている組織となれば尚更だ。

 組織内に取り込んで制御しようとするか、排斥するかというのが常道ではないかと仁吉は思う。

 前に龍煇丸から、検非違使に入らないかと誘われたこともあった。その時の仁吉は深い考えなしに向き不向きだけを考えて断ったが、保身という観点からすればかなり危ない回答だったのではないかと今さらながらに思ったのだ。

 しかしそんな懸念を読み取ったのだろう。如水は安心させるように朗らかに笑った。


「心配しなくても今のとこはそんな深刻な話にはなってないよ。琉火は俺と蔵碓にしか言ってないし、俺と蔵碓で話して検非違使の上には言わないことにしたからさ」


 仁吉は意外そうな顔をした。

 如水はともかく、堅物の蔵碓が私情で事実を黙殺するということをするとは思わなかったからである。


「傀骸装――というか、“鬼名”だっけか? そいつはけっこうヤバい代物でな。迂闊に言おうものなら大事になりかねないんだよ」


 如水は仁吉の心情を読み取ったようで、安心させるように声を柔らかくした。


「だからまあ、あんまお前は心配するな。今まで通りに過ごしてりゃいいんだよお前は」

「……そうか」


 その言葉に仁吉は少し気が楽になった。

 組織としては検非違使というところが大丈夫なのか、という気もしたが、蔵碓と如水が検非違使の一員としてよりも自分の友人という立場を優先してくれたことが仁吉には嬉しかった。

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