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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter5“vanguard:king of *****”
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like the water

 放課後になっても、仁吉は頭を悩ませていた。

 歴史研究会の講義に行くのに誰を誘うかということである。

 別に一人で行っても何も問題はないのだが、早紀にああやって頼まれた以上、なんとかなるなら人を誘って行きたいという気持ちもある。


(蔵碓は無理だし、覇城も……そろそろ体育祭だから無理だろうな。(たがね)さんは興味ないだろうし……(りょう)くんに試しに声かけてみるか)


 結局、思いついたのは同じ委員会の副委員長である二年の今津(いまづ)陵だった。仁吉はこういう個人的なことに後輩を誘うことには抵抗があるのだが、前に覇城から、嫌なことを断れる信頼関係がないならそのほうが問題だ、と言われたことを思い出していた。

 陵とは、陵が一年の時からの付き合いである。仁吉が保健委員長になった時も、後輩から副委員長を選ぶにあたって仁吉には陵以外の候補が思いつかなかった。それは他の委員のメンバーが頼りないわけでは決してなく、仕事を一番真面目にこなしてくれているのも、性格的にお互い接していて気楽なのも陵だからということである。

 そういう相手であるので大丈夫ではないかと思った。そして陵のクラスに赴き――。


「申し訳ありません。せっかくのお誘いですが、今日は部活の練習がありますので」


 あっさりと断られてしまった。

 断られはしたが、その反応にかえって仁吉は安心さていた。陵は困ったような顔をすることもなければ、嫌そうな表情も見せず淡々と断ってくれたからだ。

 部活に行く陵を見て仁吉は、


(僕の心配しすぎか。覇城の言う通りだったな)


 と思った。

 そして、ならばと思い、話の流れを変えて思い切って言ってみた。


「ねえ陵くん。今度、一緒にご飯でもいかないかい?」

「それはまた、急なお誘いですね。今度、とは?」


 聞き返されて仁吉は、


「明日とか?」


 と、とりあえず適当に言った。


「すいません、明日は用事がありまして。ですが――明後日ならば空いていますが、先輩の都合のほうはどうでしょうか?」


 そう言われて仁吉は自分の記憶を漁る。しかし明後日ならば何の用事もない。


「じゃあ明後日の夕方に……ラーメンでも食べにいくかい?」

「分かりました」


 そうして、これまで仁吉が感じていた抵抗感に反してとてもあっさりとそれは決まった。また時間や場所は連絡すると言い、陵は頷くと仁吉に一礼して部活に向かった。

 そして――歴史研究会の講義に誰かを誘うのは諦めることにした。


(やれるだけのことはしたし、まあいいだろ)


 時間が押しているのと、面倒くさくなったのである。

 仁吉はズボンのポケットから折りたたんでしまっていた講義の案内チラシを取り出す。場所は理科室と書いてあった。今から向かおうとした時に、


「おっす、仁吉。こんなとこで会うなんて珍しいな」


 そう声を掛けられた。明るくて張りのある声である。


「珍しいって言うなら、お前だってなんで二年生の教室階なんかにいるんだよ――如水(じょすい)


 相手は同学年の南茨木(みなみいばらき)如水である。スポーツ刈りの、爽やかな笑顔の似合う男子生徒である。

 そして桧楯(ひたち)龍煇丸(りゅうきまる)の兄でもある。

 去年は生徒会の副会長をやっており、仁吉とも委員会の会合などで面識があった。


「何してるんだよお前?」

「いやー、二年生の女の子を口説きに、かな? ほら、ちょうどこの前彼女にフラれてさー」


 陽気な声で、しかも授業終わりでまだあたりには他の生徒もいるのに如水は人目を憚らずそう言った。


「そうか。それは邪魔したな」


 仁吉は踵を返して理科室に向かおうとする。

 如水は慌ててその肩を掴んだ。その握力の強さに仁吉は顔だけで振り向いて如水を睨む。


「あ、悪い痛かったか。すまん」

「別にそれはいいんだけどさ。お前、僕はそういうボケは面倒くさいから流す性格だってのをいいかげん覚えろよ。そういうのは騎礼(きれい)にでもやってくれ」


 うんざりとした顔で仁吉は言う。

 如水のこういう、リアクション待ちの言動は昔からである。


(これさえなければ気さくで明るくていい奴なんだけどな)


 そう思うだけで口にはしない。

 前に言っても何も変わらなかったので諦めたのだ。


「まあまあ。で、仁吉こそ何してるんだ?」

「色々」

「そうか色々か。そうやって誤魔化すってことは……女子目当てか?」

「怒っていいか?」

「やめて。悪かった、謝るからさ」


 そう言って如水は仁吉の肩から手を離す。


「ま、本気じゃないから怒るなよ。お前がそういう、可愛ければ誰でもいいみたいな節操なしじゃないのは分かってるつもりだからさ」

「……悪気がなければ何言ってもいいわけじゃないんだぞ?」


 仁吉は目で抗議する。しかし如水には堪える様子はない。どころか、豪気な笑みを見せた。


「ま、なにせお前はうちの自慢の妹をフッたらしいからな」


 その言葉に仁吉は、自分の我慢の糸が切れる音を聞いたような気がした。

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