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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter1“*e a*e *igh* un***tue”
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monster's march_2

 その日も剣道部の練習は何事もなく終わった。

 片付けもあらかた終わり、他の部員たちがいなくなった格技場の中に泰伯は一人でいた。

 構えているのは、フェイロンと戦ったあの日に手にしていた木刀だ。

 あの出来事から一週間。泰伯は毎日、部活終わりにこうして、無斬を呼ぼうとしている。しかし今までに一度も上手くいっていない。

 家の道場では、毎朝稽古をしている。しかしその時の無斬はそれ以前と同じで無言のまま、泰伯と一本勝負をして消えていくのみだ。

 泰伯から何度声をかけても無斬は少しも反応せず、無言のままに勝負を初め、決着がつくと霧のように消えてしまう。

 もしかすると前回、無斬と対話出来た要因には学校という場所的な条件が関わっているかもしれない。そう思って泰伯は毎日試しているのだが、こうも失敗ばかりだとその推測も間違っているような気がしてきた。


(となると後はなんだろう? 命の危機に瀕していることが条件、とかかな?)


 これが一番可能性が高い気はしている。

 しかし、確証もないのに徒に危険に身を投げるような気にはならない。フェイロンのこと、剣のこと、そもそも無斬は何者で、何故自分の中にいるのかなど疑問は尽きないが、知らずとも死ぬわけではない。

 もし下手に知ることで、またフェイロンのような人外の怪物と闘う羽目になることを考えれば、このままでいいのかもしれないとも思う。


「さて、帰るか」


 泰伯は自分も着替えて、帰り支度を整えることにした。

 念のため、もう一度格技場の窓の戸締りや倉庫の施錠を確認する。その際、ふと外を見ると野球部がグラウンド整備をしているのが見えた。どうやら野球部もそろそろ練習上がりのようだ。

 泰伯は思い付く限りの場所の確認を終えると格技場を後にしようとした。

 その時である。

 既に消灯して薄暗くなった格技場の中に、黒い旋風が揺らめいた。


「無斬……?」


 黒い風は、しかし今は普段のように人の形を取ることはなくただ球体のままでそこに留まっている。


「どうしたんだい無斬。今まで学校じゃどれだけ呼んでも出てきてくれなかったのに」

『…………』


 無斬からの返事はない。

 変わりに、無斬はゆらゆらと格技場の窓の方へと進んでいく。外を見ろということかと思い、窓のほうへと行った。

 その窓はちょうどグラウンドが一望できる位置にあり、そこから見えるものといえば、先ほどと同じように上がり支度をしている野球部員たちの姿のはずだった。

 しかしそこにあったのは、地面に倒れ伏す野球部員たちである。

 そしてその先にいるのは――全身が灰色の巨大な蜘蛛の怪物だった。

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