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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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sindbad the Sailor_6

 気がつくと仁吉は玄関口のところで横になっていた。

 起き上がって周囲を見ても誰もいない。気配もしない。何がどうなったのかさっぱり分からなかった。


(死んではいない……よな?)


 不安になりながら自分の頬をつねる。ちゃんと痛みがあった。

 それはそれで、現状――ターグウェイを倒した眼帯の男と戦っていたはずが気がつくとここにいることの理由は分からないままなのだが、


(考えても分からないしな)


 と思うと仁吉は立ち上がり屋上のほうへ向かった。

 こういう切り替えの速さは仁吉の長所である。現状を不思議がったり愚痴っぽいことをいいながらも、それで動きを止めることはしない。というよりも、出来ない性格なのだ。

 もう校舎の中に生徒は残っておらず、無人の廊下を仁吉は駆けていった。

 そして屋上に続く階段を昇ったところで、屋上への扉の前で信姫が立っていた。信姫はドアノブをガチャガチャと回しているが、仁吉の姿を見ると安心したような顔をした。


「無事だったんですね、南方くん」


 そう告げる信姫の顔は、純粋に自分の身を案じているように仁吉には思えた。こういう言葉を真に受ける男が結婚詐欺などに引っかかるのだろうな、などと想いながらも心配されたことを喜んでいる自分がいる。

 そのことを誤魔化そうとして、仁吉は目を伏せた。


「まあ、なんとかね。いや、なんで無事だったのかは僕にも分からないんだけれど」


 それは本当のことである。

 しかし信姫は少し意外そうな顔をした。


「南方くんがそういう、称賛を求めるような謙遜をするとは珍しいのでは?」


 信姫はその言葉を、何故か勝ててしまったという意味合いで理解したらしい。誤解に気づいて仁吉は、違うよと言った。


「……本当に言葉通りの意味でね。僕はターグウェイには勝ってないんだ。まあ、長くなるから話はこの話は止めるとして……何してるんだい御影さん?」

「え、いや……鍵が開かなくて」

「開くわけないじゃないか。うちの高校、放課後は屋上を施錠してるんだから。鍵とか持ってきてないの?」

「だって、まだ職員室には先生方が残っておられたので」


 困ったような顔をして言うので、仁吉は段々と面倒くさくなってきた。

 そして傀骸装に換装すると、施錠されている屋上の扉を勢いよく蹴りつけた。あまりに急で、そして強引な行動だったので信姫は目を丸くした。

 仁吉はそんな風に見られていることなど気にせず、信姫のほうを見ながら、


「ほら、これでいいんだろう?」


 と、屋上へ行くように促した。


「……南方くんは、その…………」

「なんだい?」

「……ああ、いえ。そうですね……押しの強い男性は、嫌いではありませんよ?」

「……そうかい」


 それがどうした、と仁吉は思った。

 仁吉としても器物破損などしたくはなかったが、今日の放課後のことを思うと、物事が進展しているのかどうか分からないまま流され続ける状況がこれ以上続くのは嫌だという感情のほうが勝ったのである。

 信姫と仁吉は屋上に足を踏み入れた。

 施錠されていたそこには人などいるはずはないのだが、夕日の照らす屋上の真ん中に一つ、立っている者がいた。

 黒いフードつきのマントを羽織り、仁吉たちに背を向けているそれは不気味なほどに黒い。影法師が起き上がってきたようにも見えたし、マントが風にたなびく様は、黒い炎のようでもあった。


『――何用だ』


 その人物――船乗りシンドバッドは、振り向かずにそう問いかけた。

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