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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter1“*e a*e *igh* un***tue”
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monster's march

 仁吉は図書室の鍵を職員室に返しにいく早紀と別れた。

 自分がいこうかと申し出たのだが、


「これは私の仕事だから構わないよ。ほら、雨が降りだす前に帰りたまえ」


 と言われてしまったので、大人しくそうすることにした。

 一人で玄関口のあたりまで来たところで仁吉は蔵碓と紀恭が話しているのを見つけた。二人ともなにやら真剣な面持ちである。


「ああ、仁吉。お前も今帰りか」

「どうも南方保険委員長。こんな遅くまで委員会の仕事ですか?」


 仁吉と紀恭はお互い委員長同士ということもあるが、それより以前から面識がある。

 仁吉は紀恭の父のやっている道場の門下生であり、紀恭もそこで武道をやっているため、兄妹弟子なのだ。


「いや、個人的なことだよ。図書室で本を読んでいたらこんな時間でね。二人は委員会?」

「いや、途中まではそうだったのですが、少し問題が起きまして」

「問題?」

「聖火と仁美(ひとみ)が迷子になりました」


 真顔でそう言った紀恭の顔を、仁吉は目を細めて見た。聞き間違いか冗談であってほしいが、紀恭は間違いなく迷子と言ったし、基本的に冗談を言う性質でもない。


「……校舎の中で?」

「はい」

「……携帯は?」

「二人とも風紀委員の部屋に置きっぱなしですね」


 そもそもなぜ、風紀委員の聖火はともかく、仁吉の妹である仁美まで一緒にいるのかという疑問はあったが、今の仁吉にとってそれは些細な問題である。


「なんで!! そうなるのさ!!」

「校舎を一回りして玄関口に集合と決めていたのだが、約束の時刻を三十分越えても来ないのです。それで風紀委員の部屋に戻ると二人の携帯が置いてありました」

「ああもうわかったよ。僕も一緒に探すよ。とりあえずどこ探せばいい?」

「仁吉はとりあえず校舎を見て回ってくれ。私と雲雀丘くんで部室棟のほうを見て回ろう」

「了解!!」


 返事をするやいなや仁吉は駆け出した。

 二人して何をやっているんだという苛立ちはあったが、それ以上に――嫌な予感がした。


(頼むから、つまらないことであってくれよ!!)


 とりあえず仁吉は途中の教室などを見て回りながら、風紀委員が会議などに使っている二階の部屋に向かった。そこには確かに、机の上にスマートフォンが二つ並んで置いてある。

 間違いなく聖火と仁美のものだった。

 そもそも、なぜ置いてあるのかというのが疑問だ。意図的に置いていったとは思えないし、ならば置き忘れた、というのが一番現実的ではある。


(とはいえ、今日日の女子高生が二人して携帯忘れるなんてことあるか?)


 特に、普段の聖火はわからないが、家での仁美は何かあればスマートフォンをいじっていることが多い。トイレや風呂にいく時でさえ肌身離さず持っているので依存症が心配になるくらいである。

 とはいえその理由をこの場でこれ以上考えても仕方がない。

 いないのであればとりあえず校舎中をくまなく探すしかないと思っていた時である。

 聖火のスマートフォンに着信があった。相手の番号は非通知になっている。

 普段であれば他人の電話など気にしない仁吉だが、狙いすましたようなタイミングが気になった。悩んだ末に、罪悪感を覚えながらも仁吉はその電話を取った。


「……もしもし」

「こんにちは南方くん。勝手に女の子の電話に出るなんて――意外と、悪い人なんですね」


 その声の相手が仁吉にはすぐにわかった。

 決して間違えようのない相手だった。


「御影……さん!!」

「まださん付けで呼んでくださるのですか。律儀で、そして真面目ですね」

「……事情を説明してもらおうか。どうして、君が聖火に電話をしてくるんだい?」


 仁吉は平静を努めているが、その声は静かな怒りに震えている。


「そこは質問が違うのではないですか? こういう時はこう聞くべきですよ。『二人をどこへやったんだ?』とね」

「ああ、そうか。やはりあの二人がいなくなったのには君が関わっているんだね?」

「ええ。これから、この学校は少し危なくなりますので安全な場所で保護していますよ。可愛い、貴方の妹さんたちですので」

「ふざけるなよ!!」


 仁吉の声が荒くなる。

 自分でも好きになれない、荒事を前にして怒りと敵意に満ち満ちた野蛮な声だ。


「ふざけてなんかいませんよ。屋上に来てください。ああ、鍵は開けてありますのでご安心を」


 坂弓高校の屋上は、普段は昼休みだけ生徒に解放して放課後は施錠されている。鍵の管理は風紀委員の管轄であり、風紀委員でもない信姫が開けることなど本来は出来ないはずなのだが、そこをどうしたのかなどと問う気は起きなかった。


「わかった、行けばいいんだろう? その変わり――二人に何かあったらただじゃおかないからね!!」

「ええ、もちろんですとも。では南方くん。気をつけてきてくださいね」


 そう言って電話は切れた。

 すぐに部屋を出て廊下を走り出した、その時。

 窓の外に何かが見えた。

 蛇と形容するのが一番近い。しかし、大きさは頭部だけで仁吉の体より大きく、夕闇の中を泳ぐようにして宙に浮いていた。

 それは真っ直ぐに進んできて――。

 校舎の壁をぶち破って、仁吉を丸のみにしようと襲ってきた。

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