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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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dear my friend_4

 泰伯と蒼天、そして蔵碓は御影家に帰ってきた。

 門の前では詩季が不安そうにそわそわとして待っていたが、三人の姿を見ると少し安心したような顔をしつつ、蒼天と蔵碓の身を案じた。


「私は問題ない。それよりも三国くんだ。すまないが詩季くん、部屋を借りて休ませてあげることは可能かね?」

「ええ、もちろん」


 詩季は頷く。

 だが蒼天はそれを手で制し、よろよろと蔵碓の背から降りた。


「……余のことはよい。それよりも、悌誉姉と忠江はどうした? まさか、ずっと放置してきたのかの?」

「あー……。うん、まあ」


 詩季は申し訳なさそうに言う。

 それを聞くと蒼天は御影邸の中へと向かった。その足取りがあまりにも危ないので、詩季は慌てて肩を貸す。


「うむ、すまぬの……。悌誉姉は、詳しくは言えぬが訳知りなので、まだよい。が、忠江にあまり余計な心配をかけたくはないのでな。すまぬが、口裏合わせに付き合ってもらうぞ」

「……それはいいけれど、本当に休まなくていいの? かなり体調悪そうで……っていうかこれ、こないだと同じような状況じゃない!?」


 前には学校で高熱にうなされながらも月宮殿が落ちている裏山へ向かい、今はまた疲労困憊なのを耐えながら悌誉と忠江のところへ行こうとしている。

 その性格が詩季にはとても心配だった。


「うむ、まあ……そう気にするでない。これは性分での。じゃが、シキには前に膝を借り、今は肩を借りておる。それに、エンゲツどのを差し向けて貰いもしたのじゃったの」


 ううむ、と蒼天は困ったような顔をした。


「これではいかんの。シキへの負債が増える一方じゃ」

「別に良いわよそんなこと」

「……よくはなかろう。余は前に、他人のおぬしを助けるのに対価を求めたからの。それなのに、余のほうはおぬしに色々と気にかけてもらいながら何も返さぬでは筋が通るまい」


 今さらながら蒼天は、初めて会った時に木の上から降りられなくなった詩季を助けるのに対価を要求したことを後悔していた。

 まさかこんな付き合いになろうとはその時は想像だにしていなかったので仕方ないと言えばそれまでなのだが。


「……まあ、何か困ったことがあれば言うがよい。可能な限り、力になってやろうぞ」

「いいわよ別に。それに、さっきはあのトカゲ男と戦ってくれたんでしょ? あれは私の事情で、それに巻き込んだんだからお互い様よ」


 そう言って詩季は、少し気恥ずかしそうな顔をした。

 何か続けて言いたいことがあるようだが、照れているようで、だって、とか、ほら、とか、口をもごもごとさせている。


「どうしたのじゃ? はっきりとせぬの? 口の中でハムスターでも飼っておるのか?」

「……そんな人間いるわけ無いでしょ?」

「いやぁ、存外分からぬぞ? 少なくとも、虎に育てられた男ならば余は知っておるからの」

「……口でハムスター飼ってる、を聞いた後ならまだ現実的な気がしてくるわね」


 そう言われるとそうかもしれないと蒼天は思った。


「で、結局何が言いたいのじゃシキよ?」

「それは……」


 まだ詩季は言い淀んでいる。

 が、ようやく決意したようで、すう、と息を吸ってから言った。


「……もう私たち、友達…………なんだから、そういう、水くさいのは、無しでいいんじゃないかしら?」


 言い終えた時には、詩季は顔を真っ赤にしていた。

 そして蒼天は、思わず笑っていた。


「……ふむ。そうか。――友、か。そうじゃのう」

「な、何よ?」

「……いや。最後に一人、友が増えたと思うと、嬉しくての」


 そう言ったきり、蒼天は黙り込んでしまった。

 詩季は一気に顔を強張らせて蒼天のほうを見る。そこには――。

 すやすやと心地のいい寝息を立てて、完全に夢の世界へ行ってしまった蒼天がいた。


「た、タチの悪い冗談言って眠りこけないでよねーッ!!」


 詩季は腹の底から叫んだ。

 その叫び声を聞いて悌誉と忠江がやってくる。二人の顔を見て詩季は思った。


(え、これもしかして私が一人で言い訳考えなきゃいけない感じかしら?)


 二人は廊下で、詩季に肩を借りながら寝ている蒼天を怪訝そうな目で見ている。

 詩季は恨めし気に蒼天を睨みながら、必死に頭を働かせて誤魔化しの方便を考えた。

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