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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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president of students_2

 蔵碓の先代の生徒会長である武庫之荘(むこのそう)千歳(ちとせ)のことを坂弓高校の生徒に聞くと、


『変な人でしたね。いつも奇抜な格好してるし』

『偉そうな態度で、王様みたいと言うか……学校で一番偉いのは自分なんだみたいなのを、口にはしないんですけど、それが当然みたいに振る舞ってるような感じですかな?』

『気がつけばそこにいるっつーのかね? こう、何かしら揉め事とか厄介事が持ち上がりそうになるとふらっとやってくるんだよ会長はさ』

『先見の明のある男だったな。しかもそれを、衆愚が気味悪がったり拒絶することのない時宜を見て披瀝するところに上に立つ者としての差配の妙がある』

『自信家で嫌な人でしたよ。今の生徒会長とは真反対です』


 と、色々な感想を口にする。

 しかし誰しもが、いい生徒会長だったとも口にする。武庫之荘千歳とはそういう不思議な人であった。

 しかも千歳は一年生の秋から三年生の秋までずっと生徒会長を務めていた。当然、それまでに生徒会に関わったことなどなく、しかし生徒会選挙の時まで副会長を務めていた生徒も含めて、ほとんどの生徒が一年生の生徒会長を受け入れていたのである。


「えっとそれで……武庫之荘先輩の家って、釣具屋さんしてるのかい?」


 仁吉が(たがね)に聞いた。が、綰はどうなんだろうか、と不思議そうな顔で仁吉のほうを見る。


「なんか、よく分からん店だったな。釣竿はあったんだけど、何屋かって言われると……駄菓子屋かな?」


 その場にいる誰もが綰の言葉に首をかしげた。


「……何をどうしたら、駄菓子屋で釣竿を買うようなことになるんだよ姉さん?」

「いや別に釣竿買いに行ったわけじゃないよ? ただ、なんか面白そうな店だなと思ってとりあえず入って見たら会長がいて、そう言えばお前は釣りが好きだったな、ならばいい竿がある、とか言って奥から出してきてくれたんだ」

「……そうですか。まあ、あの人ならばそういうこともあるかもしれませんね」


 綰の言葉に信姫は目を伏せて、一応の納得を示した。


「……まああの人ならあり得るかも…………あり得るのかなあ?」

「俺に聞かないでください」


 仁吉は陵に意見を求めたがすげなく流された。


「まあ、常識に通用しない人だしね」


 と仁吉が言うと、


「でも別に非常識な方でもないのですよね」


 と信姫が返す。そのやり取りを見ていた綰は、


「日本語って難しいな」


 と隣の陵にこぼした。陵は、まあそうだなと適当に頷いている。

 そしてそこへ、


「ちなみに世界で一番難しい言語はラテン語らしいですよ」


 という、的外れなことを言う呑気な声がした。

 振り向くとそこにいたのは、眠そうな顔をしてあくびをかみ殺しているスーツの男性の姿があった。坂弓高校の英語教師である仁川(にがわ)牙門(がもん)である。


「みなさんも釣りですか? 今日はいい天気ですからね」


 牙門はスーツ姿に似合わない、釣り竿とバケツを手にしている。

 どうやら彼もひょうたん池に釣りをしにやってきたようだ。


「先生、仕事は?」


 綰が聞くと牙門は、


「まあまあ」


 とにこやかな笑みを浮かべて堂々と誤魔化した。


「仕事だけが人生ではありませんよ。君たち学生にとって、勉強だけが人生ではないようにね」


 そんなことをはっきりと生徒の前で言ってしまうのがこの牙門という教師である。

 実際、授業こそそれなりにはこなすが、普段は起きているか寝ているか分からず、ふと廊下ですれ違えばぼうっとしているかあくびをかみ殺しているような有様なのである。年齢は三十くらいなのだが、とにかくやる気がないのである。

 授業中に居眠りしている生徒を見つけると、


『僕だって寝たいのを我慢しているんですよ』


 という独特な怒り方をするし、たまに自習をさせることになれば生徒以上に喜んで椅子に座って終業まで眠っているような性格であり、口さがない生徒からは『昼行灯』というあだ名をつけられている。

 仁吉は流石にそう呼ぶことはしないが、美術教師の岡町(おかまち)琥珀(こはく)と並んでダメな大人の代表格と認識していた。

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