the orge_2
正義の味方を名乗る剣士と、為剣は自らの知る淼月凰琦丸についてそう評した。
正義の味方と言い切らないところを龍煇丸は不審がった。それを聞くと為剣は、
「だから、自称正義の味方なんだよ」
と目を伏せて説明する。そのうんざりとした顔が龍煇丸には、仁吉が凰琦丸について語っていた時に似たものを感じた。
「ふーん。つまり、正義ヅラしたり綺麗事だけ言って悪さしまくってるって感じ?」
「……その程度ならどれだけ良かったことか」
どうにも為剣の言葉は歯切れが悪い。
詳しく教えてくれと龍煇丸は頼んだ。
「そうだな……。悪党や怪異に果敢に挑み、そういったもんに襲われてる弱い相手を見捨てることなく、それでいて自分が戦いの中で卑怯な手段を取ることもない。それでいて敵が卑劣な策を弄してきても、真っ向からそれをねじ伏せちまう。そんな奴だった」
「それはもう、正義の味方でいいんじゃないの?」
話だけを聞いているとその淼月凰琦丸はとても高潔な人のようである。しかし為剣は、そう口にしながらも釈然としないものを抱えているようだった。
「まあ、な。悪人ではなかったよ。実際、あいつがいなきゃ俺は死んでただろうしな」
「ああ、焱月に殺されかけたってやつ? その時に助けてもらったってことだよね」
「……まあ、うん」
「あのさあ。さっきからもごもご喋るのやめてくれない? 面倒くさいし分かりにくいし。もしかしてボケてはっきり覚えてないの?」
龍煇丸は詰るように言う。
為剣のことなのでまた何か文句を返してくるかとおもっていたが、意外にも為剣は静かに首を横に振った。
「いいや。その時のことは、今でもはっきり覚えてるさ。殺されかけたところを淼月に助けられて――その後、淼月に死ぬような目に合わされたことまでな」
「あー、そういや両方ともに殺されかけたって言ってたね。タメさん、何したの?」
龍煇丸はけらけらと笑っている。
「……何したっつうか、助けられて焱月を撃退した後にそいつは急に俺の首筋に刀を突きつけてきてな」
「へぇ、情熱的じゃん」
「――頭沸いてんのかお前?」
「少なくとも刺激的ではあるよね? で、そこからどうなったの? 殺されかけた?」
龍煇丸はいつになく楽しそうで、講談の続きをねだる子供のような弾んだ声である。
「まあ、殺されかけたよ。鍛えてやるとか言われてな。ちなみに拒否権はないし、手加減もなしだ」
「何それ楽しそうじゃん!!」
「さっきからずっとお前の相槌おかしいだろ!!」
龍煇丸のほうがましと言ったのは嘘では無いが、感性はかなり近いなと為剣は思った。
「少しはこっちの身にもなれよな」
「うん。だから、その上で羨ましいなって言ってるんじゃん」
「……これを羨ましがるのは戦闘狂だけ……まあ、そうだな」
呆れたような目をしてから、為剣は肩を落とす。
「でも、まあ確かに俺はレアケースかもだけど、タメさんだって変わり者だぜ?」
「……どのあたりがだよ?」
訝しむように目を細めると、龍煇丸はとてもいい笑顔をした。
「だってさ、恋してたんでしょ? その、ビョウゲツオウキマルさんにさ」
「……今の話のどこをどう聞いたらそういう感想になるんだ?」
そう言いながらも為剣は、口調を荒げるようなことはしなかった。
その反応を見た龍煇丸はニッと笑って、
「タメさんてさ――嘘が下手だね」
自分の直感が当たったことを確信し、得意げな顔をした。