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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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redrain ax_3

 戦闘が終わり、蔵碓が戦闘用の結界を解除すると、蒼天は傀骸装を問いてアスファルトの上に大の字に寝転がった。


「もう無理じゃ!! 動けぬ!! 動かぬ!!」


 駄々をこねる子供のようだが泰伯と蔵碓は咎めることをしない。むしろ蔵碓は優しく蒼天を抱え、背負った。

 そうしている蔵碓のほうも傷だらけであるのだが蔵碓は特に気にする様子はない。


「……そういえば、会長は本当に戦う時は生身なんですね」


 傀骸装を解いた泰伯は案ずるように言った。

 泰伯にも疲労はあるが、傷そのものは一つもない。斬られた腕も、折れていたであろう全身の骨にも何の問題もない。


「うむ。というよりも、我々にはそれが普通なのでね。検非違使には義肢を使っている者もいるよ。幸いに、私はまだそうではないがね」


 蔵碓の言葉は、戦闘で手足を欠損したことがないという自慢ではない。むしろ、いつそうなるか分からないと戒めを込めつつ、まだ起きていないという結果に慢心しないための言葉だ。

 そんな蔵碓を見て、傀骸装という便利な技術の恩恵を受けている泰伯は自分が卑怯者のように思えてきた。

 しかもそれが、努力や研鑽で得た物ではないだけに泰伯は慚愧を顔に出した。


「そんな顔をすることはなかろう。ある物は何でも使えばよいのじゃ」


 蒼天は泰伯の考えていることを悟ったらしく、蔵碓の背から声をかけた。


「うむ。私もそう思うよ」


 蔵碓も蒼天の言葉で泰伯の悩みが分かったようで、優しい口調で言った。


「戦いである以上、勝つために持っているもの、使えるものは惜しまず使うべきだろう。例えば、私は背が高く、それは努力によるものではないが、私が自分の上背を利用することは卑怯かね?」


 そう問われて泰伯は首を横に振った。


「まして検非違使の戦いとは人を守るための戦いだからね。負けることは許されないし、そのための手段など選んではいられないさ」

「うむ、全く持って会長どのの言う通りじゃの。余に至っては、かつての臣下の力すら臆面もなく振りかざしておるのじゃ。ヤスタケどのはもう少し恥知らずになったほうがよかろう」


 そこで、かつての臣下、というのがどういうことか蔵碓は聞いた。蒼天は“鬼名”の話と前世で王であったと蔵碓に教える。


「ふむ、楚の荘王か。名前は分かるが、詳しい事績までは知らないな」

「名前知ってるだけでも御の字じゃの。ヤスタケどのが少しおかしいのじゃ」


 蒼天は自分のことながら、呆れたように言った。


「そう言えば臣下の力と言ったけれど、あの斧は誰の力なんだい? 弓のほうは分かるけれどさ」

「ふむ、ヤスタケどのは誰じゃと思う?」

「そうだね。荘王の臣下というととりあえず出てくるのは、蔿艾猟(いがいりょう)蔿賈(いか)潘崇(はんすう)潘尫(はんきょう)伍挙(ごきょ)巫臣(ふしん)申叔時(しんしゅくじ)……というところなんだけれど、この中にいるかい?」


 スラスラと名前が流れ出てくるのを見て蒼天は呆れた。そして、その中にはいないと返す。


「じゃあ誰なんだい? それとも、史書には名前の残っていない猛将とかなのかな?」

子越(しえつ)


 蒼天は素っ気なくいい、泰伯はそれを疑うような顔をした。


「子越って、あの子越かい? 荘王に反旗を翻した若敖(じゃくごう)氏の」


 子越は元は荘王の臣下であったが、後に荘王に背き、楚の重臣を斬った上で対立した末に敗死した人物である。

 そのことを知っているので泰伯は驚いたのだが、しかし蒼天は開き直ったように、


「言ったであろう。使える物は何でも使うべきじゃとの。それが仇敵の力であっても同じじゃ」


 と迷いなく言ってのけた。

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