表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
291/388

president of students

 仁吉と信姫が裏山の中腹にあるひょうたん池に着くとそこには三年生の今津(いまづ)(たがね)と、二年生の今津(りょう)の姉弟が釣りをしていた。


「おー、なんだ御影? 馬鹿みたいな格好してんなー」


 綰は磊落な笑みを見せた。

 信姫は綰を睨むが、綰は声を張って笑っている。

 陵は信姫のほうを見て、一瞬、ぎょっとしたが、すぐに仁吉のほうを見て、


「……南方委員長は、その…………いえ、なんでもありません」


 と、歯切れの悪い態度を見せた。


「……言いたいことがあるならいいなよ陵くん? 君に軽蔑されたとしても僕の君への信頼が揺らぐことはないからさ」


 聖火と仁美に軽蔑の目で見られたことで色々と吹っ切れた仁吉は、開き直った態度である。


「いえ、その……推測でしかありませんが、押しに負けて巻き込まれたのでは?」

「……まあ、そんなとこだね」


 仁吉はその言葉を否定しない。


「人がいいのもほどほどにしておいたほうがいいと思いますよ?」

「……そうだね。忠告は胸に留めておくよ」


 陵が本心でそう言っているのか、あるいは気を利かせて本音を曖昧にしたのかは分からないが、そう言ってもらえたのが嬉しかったので素直にそう返した。


「あ、そういや南方!! こないだはうちの愚弟が迷惑かけたな!!」


 綰は信姫の服装をからかって爆笑していたが、ふと思い出したように仁吉にそう言った。こないだ、とはもちろん、格技場での陵と広利(ひろとし)との喧嘩のことである。

 陵は普段から姉である綰のことを悪しざまに言って疎んじるような態度を取っているが、話すことは話しているのだなと思った。


「まあいいよ。もう済んだ話だからね。というか、丸く収まった話をわざわざ掘り返すのはやめてあげなよ」

「ま、そりゃそうなんだがな。だけど弟が世話になったり迷惑かけたんなら私としても一言くらいは礼を言っておかないとな。姉のツトメってやつだ」


 爽やかに笑う綰を見て、仁吉は陵に小声で、


「いいお姉さんだね」


 と言った。しかし陵は気の抜けた声で、まあ、と素っ気なく返すだけである。長男であり弟の気持ちというものが分からない仁吉は、弟にも色々とあるのだろうと思った。


「ところで今津さんは今日も太公望(たいこうぼう)ですか。好きですね」


 仁吉と陵が話している間、信姫は綰と話していた。


「お前は何だよその服装? つーかお前、南方と付き合ってたのか?」


 綰の言葉に信姫は僅かに頬を赤く染めながらも首を横に振った。


「へー。南方のやつ、彼女でもない女がそんな格好してる横に付いてきてるのかよ。あいつも案外、美人にゃ弱いんだな」


 その言葉に信姫は少し複雑そうな顔をした。


「……まあ、南方くんはいい人なので」

「まあそうだな。そしてお前はそのいい人に付け込む悪女ってわけだ」

「そういう言い方はやめてもらえませんか?」


 信姫は少しムッとした。すると綰はまた、声を上げて笑う。


「ははっ、まあそりゃそうだな。少なくとも今のお前はそういう感じじゃないよ。もっとこう、なんつーか……お転婆?」

「貴女には言われたくありません!!」


 信姫に抗議されても綰はどこ吹く風であり、しかもちょうどその時に手にしていた竿に当たりが来たので、そちらに夢中になっていた。

 信姫がちらりと綰の横に置いてあるバケツを見るとそこには山のような釣果がある。


「今日はまた一段と好調のようですね」

「あーうん。会長の家がやってる店でいい竿買ってさ」


 その言葉に信姫と、その会話を横から聞いていた仁吉は疑問に思った。

 会長――生徒会長である蔵碓の家は崇禅寺という寺院である。仁吉は、あるい蔵などから出てきた物だろうかと思ったが、崇禅寺家そういうものを他人に譲るときに金を取るだろうかと言うのが疑問であった。


「たがね……姉さん。その言い方は誤解を招くし、崇禅寺会長に失礼だよ」


 陵に窘められて綰はしまった、という顔をした。

 しかし仁吉はそれで、綰の言いたいことが分かった。


「あー……。もしかして会長って武庫之荘(むこのそう)先輩のことかい?」


 綰は頷く。武庫之荘先輩――武庫之荘千歳(ちとせ)は蔵碓の前の坂弓高校の生徒会長である。この男子生徒は一年生の秋から三年生の秋までの間、ずっと生徒会長であり続けた人であり、三年生の中には今でも会長と言うと千歳のことを指して言う生徒はそれなりにいる。

 とはいえ、今の生徒会長は蔵碓であり、陵は仁吉が蔵碓と幼馴染で色々と気にかけていることを知っているので綰の言葉に苦言を呈したのだ。

 しかし仁吉は、


「まあ綰さんの気持ちも分かるよ。蔵碓の奴は我が強いけどあの人は……癖の強い人だったからね」


 と言った。そして信姫までも、


「まあ……変わった人というか、目立つというか……癖の強い人でしたね」


 と遠い目をして言った。


「でも……生徒会長としてはちゃんとしてたんだよね」


 仁吉がしみじみと言う。

 仁吉たちも知らないことであるが、千歳が生徒会長に決まった時の生徒会選挙の得票率は圧倒的であったとは聞いている。

 坂弓高校には伝統的に、副会長や副委員長が生徒会や委員会の次のトップになるという暗黙の了解があり、しかし千歳はそれまで生徒会になどまるで関わらずに立候補した。

 にも関わらず、当時の副会長を押しのけて生徒会長に選ばれたのである。しかもそれを、先代生徒会長や副会長も含めて誰もが納得していたのだ。


「まあ、なんだかんだで僕は好きだったよ、あの人のことは」


 仁吉がそう言うと信姫と綰も頷く。

 しかし陵だけは、


「そうですか? 俺はあの人は……少し、苦手でしたよ」


 と、三人に申し訳なさそうな顔をした。


「いやまあ、それはそれで真っ当な感覚だと思うよ?」


 陵の感性を肯定するように仁吉はそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ