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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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「“吶喊(とっかん)せよ”――緋雨(ひさめ)闘戉(とうえつ)!!」


 そう叫んだ車上の蒼天の手には、二メートルほどの長柄の両端に斧状の巨大な刃が非対称についた武器が握られていた。小柄な蒼天の体には不釣り合いのように見えるが、その大きさに手こずっている様子もない。

 チャリオットも減速することなくフェイロンへまっすぐ駆けていく。

 フェイロンが鉤爪を振るい鉄砲水を飛ばした。正面の蒼天へ向けて三本、左右から迫る泰伯と蔵碓に向けて二本ずつである。

 泰伯と蔵碓は迎撃のために足を止めた。来ると分かっていれば無斬と石壁で防ぐこと自体は出来る攻撃である。

 そして蒼天は――。


(馬は狙わず余を直接攻撃か。回りくどいのは嫌いのようじゃの!!)


 両手で大斧を振るった。その一撃は鉄砲水をあっさりと一蹴したが――振るったのと逆のほうの刃が、蒼天の左腕に深く突き刺さり、そこから血がどくどくと流れ出してきた。


『そりゃ、そんな巫山戯た形の武器を振るえばそうなるに決まってんだろ!!』


 馬鹿にするわけでなく、素直な感想としてフェイロンは言った。

 しかし蒼天は腕を抑えながらもチャリオットごと前進して来ているし、気が付けば泰伯も無斬の間合いまで接近してきていた。無斬の能力――魔力の刃を生み出して射程を伸ばす遠隔斬撃“南風黒旋(はえのこくせん)”の存在をフェイロンは知らない。それでいて、刃の届かない位置で足を止めて剣を振るった泰伯を見てフェイロンは咄嗟に横へ跳んだ。

 それを見た蒼天はチャリオットから身を乗り出し、馬の背を蹴って大きく跳ぶ。目的地はフェイロンが逃げた先だ。蒼天は右手一本で、今度は自分の腕を切り裂いてしまわぬよう、斧を少し斜めに傾けて振り下ろす。

 フェイロンは蒼天を睨む。その視線の険しさに応じるように、フェイロンの周囲を取り巻いていた水流がいっそう速度を上げて回転し始めた。大斧と水流は激しくぶつかり合い、もう少しのところで守りを貫いてフェイロンの体に刃が届くか、という寸前で蒼天の体を弾き飛ばす。

 飛ばされた蒼天が地面に落ちそうになった時、その落下地点にチャリオットが走りこむ。その上に着地しながら蒼天はフェイロンを見た。

 フェイロンはもう、遠くに下がっている。


「三国くん、大丈夫かね?」


 蔵碓は声を張り上げて蒼天に問いかけた。蒼天は小さく頷きつつ目配せをする。腕一本を犠牲にしながらも蒼天は涼しい顔をしていた。

 蒼天はそこで、しまったと思った。

 この場には通信札を持っている人間がおらず、連携が取りにくい。フェイロンが尋常ならざる相手だということは蒼天も正しく認識しており、その上で連携がままならぬのはやりにくい。

 蒼天が憂鬱な顔をしたことで泰伯と蔵碓もその懸念に気づいたらしい。

 蒼天は一度、大きく息を吸って、思い切り声を張り上げた。


「やむを得ぬ!! これからは、策も、互いへの連携も口頭でするしかあるまい!! 幸いにしてこの場に魯鈍な者はおらぬ故、思うことあらば端的に伝えられよ!!」


 それは当然、フェイロンにも聞こえる。

 あまりにもあけすけな蒼天の指示にフェイロンは、むしろこのやりとり自体が何かの罠ではないのかと疑ってしまった。

 しかし蒼天はフェイロンの疑念など意にも介さず、ゆっくりとチャリオットを前に進めつつ、声を張ってフェイロンに聞く。


「ところでおぬし、何故にしーを……御影シキを狙う!?」

『何だ、知らないのか?』


 フェイロンは怪訝な顔をしつつも攻撃はしてこない。

 蒼天は、いつでも踏み込めるように待機している泰伯と、拳を握りしめている蔵碓を視線で制しつつ、さらにフェイロンと間合いを詰めた。


「知らぬの。というか、それ以前に疑問なのじゃが――おぬし、そもそも怪異(・・・・・・)なのか(・・・)?」

『まあ、お前らからすりゃ似たようなもんだろうさ』


 フェイロンは言外にそうでないと告げた。


『だが、それがお前らに何か関係あるのか?』

「無いの」


 蒼天は素っ気なく言いつつフェイロンの視線に注視した。

 フェイロンは話しながらも左右の泰伯と蔵碓から注意を逸らす気配がない。警戒されていると分かっているので、二人からもすぐにフェイロンに仕掛けようとはしていなかった。


「しかしまあ、興味はある。せめて、何故しーを襲うのかくらい聞く権利は余らにもあると思うのじゃがの?」

『お喋りは趣味じゃねえよ。手を引くか、死ぬか。お前らにあるのはそれだけだ』


 そう言いながらフェイロンの顔には僅かながらに苛立ちがある。


「のうフェイロンとやら。おぬし――前にもしーを狙ったことがあるのか?」


 その問いかけにフェイロンは露骨に顔をしかめつつ舌打ちをした。

 泰伯は蒼天の深意は分からないが、何かの助けになるかも知れないと思い、叫んだ。


「彼はつい一月前にも、御影さんを殺そうとして――その時は僕が倒したよ!!」


 そしてちらりと蔵碓のほうを見る。

 蔵碓もまた、叫んだ。


「フェイロンとは、歴代の御影家の当主を狙っていると、我ら坂弓の検非違使の中では有名な怪異だ!!」


 二人からそう聞いて蒼天は、敢えて挑発するような笑みを浮かべた。


「ほう。おぬしさては――過去に何度もしくじって(・・・・・)おるの(・・・)?」


 その一言にフェイロンは激昂した。

 鉤爪を振るい、鉄砲水を放つ。

 蒼天はチャリオットを駆りつつそれを避け、フェイロンに肉薄した。そして手にした大斧を振るう。

 負傷した左手を強引に添えて大きく振りかぶることで、反対についた刃は蒼天の腕ばかりでなく肺までも抉った。それでも蒼天は意にも介さずに攻撃する。

 しかしフェイロンは、先ほどの攻防を制していたことで蒼天の持つ斧――緋雨(ひさめ)闘戉(とうえつ)に脅威を抱いていなかった。

 周囲を守る水流で防げると確信していたのである。

 しかし――蒼天の振るう大斧は、押されつつもフェイロンの守りに、僅かではあるが亀裂を作った。

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