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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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the evileye

 坂弓高校の裏山、北斬山(きたきりやま)の上で現場検証をしている最中、為剣(ためあきら)から厳しい口調で、戦闘中に眼帯を取っていないかと問われた龍煇丸は呑気な声で、


「そんなつまんないことしないよ」


 と返した。

 為剣にとっては真剣な問いかけなのだが龍煇丸はとてものんびりとしている。


「つまるつまらないの問題じゃないだろうが?」

「だってあれ、嫌な感じしかしねーんだもん。つーか、それで勝っても(・・・・・・・)楽しくないし」


 為剣はこめかみに青筋を立てた。


「あ、の、な!! お前はもう少し危機感を持て!!」

「だからちゃんと、取ってないって言ってんじゃん? 危険だから取らないのと、つまらないから取らないのとどう違うわけ? 結果は一緒だよね?」


 為剣に説教をされても龍煇丸はどこ吹く風で開き直っている。むしろ龍煇丸からすれば、眼帯を取ろうなどとは微塵も考えていないのに責められている現状が理不尽だとさえ思っていた。


「……お前さ。本当に左目に爆弾抱えてる自覚あるんだろうな?」

「だから、あるから使わないんだよ。自爆特攻かまして勝ってもつまらないから使わないって言ってるじゃん? これだから若作りのジーサンは物わかりが悪くて困るよ」


 龍煇丸は挑発的な口調で、大げさに肩をすくめて見せた。

 為剣は流石に我慢の限界が来て、龍煇丸の頰を思い切りつねる。

 しかしこれは、為剣が危惧するのは当然のことでもあった。

 為剣が鬼方士(ガイファンシ)の元から逃げ出して数年後。自分の運命を滅茶苦茶にした連中に報復してやろうと、苦心の末に突き止めた鬼方士(ガイファンシ)の実験場にたどり着いた為剣が見たものは――まるで爆心地のように何も無い地の真中に佇む一人の少女の姿だった。

 髪は白く、左目が炎のように赤い――黒の襦袢を着た彼女は、全身に炎を纏いながら周囲を睥睨している。

 為剣は何度も調査し、裏取りもした。この場所に鬼方士(ガイファンシ)の実験場があることは間違いないと確信していた。

 ならば考えられることは一つである。眼前の少女が壊滅させたのだ。

 為剣は別に、結果として鬼方士(ガイファンシ)の連中が死に絶えたなら過程はどうでもいいと言うのが本音である。何が何でも自分の手で報復を、というほどの執念はない。

 問題は――炎を纏う少女である。

 おそらく彼女もまた実験体であり、何かのはずみで力が暴走してこのような結果を招いたのだろうということは容易に推測がついた。

 問題はその暴走が、落ち着いているのか、それともまだ暴走している最中なのかということである。そしてその時、実験体の少女――龍煇丸は、まだ暴走していた。為剣と目が合った瞬間、龍煇丸は為剣に襲いかかってきたのである。

 その龍煇丸と対峙し、左目が暴走の原因であると突き止めて、しかし封印する術もないので仕方なく龍煇丸の魔力が枯渇するまで相手をした結果、為剣は少なくとも五度は死にかけたのである。

 十時間に渡る死闘の末、ようやく魔力の尽きた龍煇丸を保護し、左目を封印するための眼帯を月宮殿から借り受けて初めて為剣は人心地がついた。

 そして意識を取り戻した龍煇丸に、その眼帯は決して取らないようにと厳重に言いつけたのである。

 しかし当の龍煇丸は、暴走したという自覚はあれど暴走中の記憶はないので他人事である。止めてくれた為剣の苦労さえ知らないので、取るなという言いつけは守っているのだから口うるさく言うなというのが本音であった。


「誰が若作りのジジイだよ? 実年齢は否定しないが、別に俺は好き好んでこんなじゃねぇんだぞ?」

「でもさ、若くて困ることはないでしょ? 老いたくなくてもヨボヨボになってくのが人間なのに、タメさんは贅沢なんだって」

「そりゃそうだが、若作りとは言われたくねえぞ」the


 苛立ちながら為剣は言う。


「ま、それはごめんね。でもま、この目は使わないからそれだけは心配しなくていーよ。タメさんが年齢とか外見のこと言われんのが嫌なように、俺もこの眼のことしつこく言われるのは()なんだよ」


 龍煇丸は口を曲げた。そして、


「ま、俺はこんな眼なんかなくても超強いからさ。問題ないよ」


 とからりと笑った。

 為剣もこれには、流石に杞憂を表に出しすぎたと反省して、悪い、と謝った。

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