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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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soul watcher_4

 夜中に裏山の池であった、顔も見えない相手にいきなり絵を描いてやるというのは充分おかしな話ではないかと仁吉は思った。

 というよりも、怜士にしろ琥珀にしろ、得体の知れない相手に対しての警戒心や興味が希薄すぎやしないかと仁吉は思う。


「普通に不審者ですよねそれ?」

「いやあ、別にそんな風じゃないよ。ああでも、探しているんだったらこれ、返しておいてくれ」


 琥珀はそう言って財布の中から何かを取り出して仁吉に渡す。ハンカチに包まれているそれは、ビー玉くらいの大きさの燦然と輝く石だった。


「これは?」

「そいつがくれた。絵の礼だと言っていたが、鑑定して貰ったらすごく値の張るものでね。流石に受け取れないが、それきり会うこともなくて困っていたんだ」

「……すごく値の張るって、どれくらいですか?」


 仁吉は恐る恐る聞く。


「まあ……軽自動車なら二、三台は余裕で買えるな」


 仁吉は気軽に素手で触ってみようかと思っていた手を止め、慌ててそれをハンカチの中に戻した。


「……まあ、それくらいはするんじゃないですか? どう見ても(ぎょく)ですよこれ」


 信姫は驚きもせずに言う。玉とはつまる磨かれた価値のある宝石のことであり、物にもよるが高価であることは確かである。


「めちゃくちゃ大したこと起きてますよね? というか、貰ったんならそのまま売って博打か酒に消せばよかったのでは?」


 玉を慎重な動作で信姫に預けつつ仁吉は叫ぶ。

 琥珀は心外だという顔をした。


「お前は私を何だと思っている? 私はこれで、給料と妹からの小遣い以外で酒やギャンブルをやったことは一度もないというのが誇りなんだ」


 いい歳をして妹に小遣い貰ってるということを知り、仁吉の中での琥珀の株がさらに下がった。悪い大人の見本市のようだとさえ感じる。


「そういうことに逐一反応していたら岡町先生とは話せませんよ」


 信姫は諭すように仁吉の肩に手を当てた。

 怜士のほうはというと、


「まあ、生き方は人それぞれだからね」


 と大真面目な顔で言う。琥珀は実は対価として自分の描いた絵を妹に渡しており、画商である妹はそれを売って琥珀に渡している小遣い以上の利益を得ているのだが、そんなことを知らない仁吉は琥珀がただただだらしない大人に思えた。


「それでだ。流石にそれは持て余す。だからもし会えば返しておいてくれ」

「いやですよ。というか、どうするかは置いておいて先生が持っておけばいいじゃないですか」


 仁吉は面倒そうな顔でいる。高価な物と聞いては扱いに困るし、万が一紛失でもしようものなら一大事である。そんなものとは極力関わり合いになりたくないというのが仁吉の本心だ。

 怜士も、流石にそういうものを生徒に預けるのはどうかと難色を示したので琥珀は渋々と玉を返してもらった。


「まあ、ならせめて受け取りに来いとくらいは言付けてくれ」


 琥珀は素っ気なく言った。信姫は頷き、


「ならば次は、ひょうたん池に行ってみましょうか」


 と仁吉に行って二人は音楽室を後にした。

 二人を見送った怜士は、ふと気になって琥珀に聞く。


「ところで、絵を描いてあげたと聞きましたが、その船乗りシンドバッドくんには何を描いたのですか?」


 怜士は琥珀が『人の魂』を絵の題材にしているのを知っている。そしてそんな琥珀に船乗りシンドバッドという不思議な存在の魂はどう見えたのかに興味があった。

 しかし琥珀は、


「そんな面白いものじゃありませんよ。ただの小さな、釣りをしている子供の絵です」


 と言ってキャンバスに視線を落とす。

 そこには、虎の背に乗る少女という構図の下書きが鉛筆で荒々しく描かれていた。

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