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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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blackbolt from the blue

 勇水がいなくなっても、暫く泰伯は呆然と御影家の門の前に立ち尽くしていた。ちょうどその時、蔵碓がそれを見つけて声を掛けてくる。


「大丈夫かね茨木くん?」


 その声で泰伯はようやく我に返った。


「あ、ああはい。すいません、会長。まだ飲み物買って来てないです」

「それは構わないのだが、どうした? 立ち眩みでも起こしたかね?」


 蔵碓は泰伯の身を案じてそう聞いた。泰伯は首をブンブンと横に振って意識をはっきりさせると、


「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」


 と元気な声で言った。

 しかし蔵碓にはそれでも、泰伯が無理をしているように見えたので、一緒に自販機まで行こうと提案した。

 泰伯も頷き、二人で少し先の自販機のところまで歩いていく。

 その途中、泰伯は蔵碓に聞いた。


「ところで会長は、漢籍のほうは詳しくですか?」

「内容によるな。『論語』と『史記』は一応読んだが、それ以外は恥ずかしながら怠っていてね」

「……それでもさらりと『論語』とかが出てくるあたりは流石ですよね」


 泰伯は素直に感心していた。

 しかし蔵碓は顔を険しくして、むしろ自分の不勉強を恥じているようだった。


「しかし急にどうしたのかね?」

「いえ、個人的なことなのですが、少し気になることがあったので。中国の……春秋時代の頃の話で」

「春秋時代か。急ぎでないならば、芦屋川教諭に聞いてみるといい」

「芦屋川先生……。現文古文の先生のほう、ですよね?」


 蔵碓は頷く。


「芦屋川教諭はたまに、『春秋』や『戦国策』などの、教科書にない漢籍を使って授業をしておられるのでね」

「そうなんですか?」


 高明は一年生の古典は受け持っていないので泰伯はそのことを知らなかった。二年生になってからは高明の授業を受けているが、今のところは教科書通りの授業をしている。


「歴史研究会の顧問もされているし、そこでも時おり中国史の講義をしていると仰っていた。研究会に入らずとも聴講は出来るらしいので、話を聞きに行くか聴講に参加きてみてはどうかね?」


 それもいいかもしれませんねと泰伯が言ったその時である。

 急に冷たい風が吹いた。

 その風に泰伯は嫌な気配を感じた。それも、その気配の正体を泰伯は知っている。

 そしてそこに詩季が現れた。急いで走って来たようで息を切らしており、靴も踵を踏み潰して無理やり履いたような感じである。

 そして詩季は、蔵碓の横に泰伯がいるのを見て大きく天を仰いでから、何かの覚悟を決めてキッとした真剣な顔つきをした。


「会長、早くその二年生を遠ざけなさい――あいつが来るわ(・・・・・・・)


 その言葉だけで真意を悟った蔵碓は泰伯のほうを見る。泰伯は無言で頷いた。

 しかし詩季は、二人がもたもたとしているのが苛立たしくなって泰伯に掴みかかり、


「いいから早く!! どっか行きなさい!!」


 と怒鳴りつけた。泰伯がその手を振りほどこうとしたその時である。

 雷鳴のような轟音が響いた。空は青天で、黒雲など一つもないのにである。

 そして一つの人影が3人の前に現れる。しかしその姿は、人形(ひとがた)ではあれど人間ではない。

 漆黒の肌に赤い目。手足に白銀の鉤爪のような装甲を纏った生物――かつて泰伯が対峙した存在、フェイロンが悠然と立っていた。

罪深き 泥と縄の蔦の成れ果てどもに告げる

我が背を踏むを 許してはいない


その穢れに満ちた足を削ぎ

呪いを纏いし身を押し流して


無くした命を 取り戻す

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