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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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slave's blade

 五月七日の午後三時半時ごろ。

 検非違使の戦士である南茨木(みなみいばらき)為剣(ためあきら)は坂弓市にある山の頂上で人を待っていた。

 為剣がここに来た目的は月宮殿の撃墜騒動の現場検証のためである。とはいえ、主な痕跡自体はほとんど検非違使が隠蔽してしまっているので、今回は最終的な確認くらいである。

 そしてそれも為剣は粗方終わらせてしまった。やはり新たな発見は何もない。そもそも、事件が起きたということすら分からないほどである。

 そもそも為剣は、事件に立ち会ったという検非違使――龍煇丸と三時に待ち合わせをしていたのである。それなのに三十分を過ぎても一向に龍煇丸は来ない。

 流石に不安になった為剣がスマートフォンを取り出し龍煇丸に電話をすると、そこからは呑気な声が聞こえて来た。


『ねータメさん!? どこで何してんのさ? もしかして迷ってる?』

「こっちの台詞だこのクソ方向音痴!! テメェ今どこにいやがる!?」

『え、山の上だよ?』


 龍煇丸はけろりとして言う。

 為剣は嫌な予感がした。


「おいお前……。まさかと思うが、月宮殿が墜ちたのって、北斬山(きたきりやま)じゃないよな?」


 北斬山とは坂弓高校の裏山の正式名称である。しかし坂弓高校の生徒でその名を使う人間はほとんどいない。


『いや、南斬山(みなみきりやま)だよ? うちの高校の裏』

「そっちは!! 北斬山だ!!」


 怒鳴られて龍煇丸はあれ、と呑気な声を出した。


「どうなってやがるんだよそもそも!! 検非違使の資料にも南斬山って書いてあるぞ!!」

『じゃあこっちが南斬山なんだよ。タメさん、南と北くらい分かんないの?』


 龍煇丸は得意げになって、前に仁吉に教えてもらったやり方を説明する。その方法は為剣も知っていた。そして龍煇丸の覚えていたやり方では四方が真逆になってしまうことも分かったのである。


「……くそが。だいたい、まあお前の磁力の飛んだコンパスみたいな方向感覚はいいさ。なんで、検非違使の資料まで間違ってんだよ!!」


 為剣が声を荒げると、龍煇丸はあっ、と何かを思い出したような声を出す。

 為剣の顔が強張った。


「……おい。まさかと思うが、検非違使への報告資料、お前が作ったとか言わないよな?」

『てへ?』


 龍煇丸は思いつく限りの、精一杯の可愛い声を出した。しかし為剣にそれは通用しない。


「ざっけんなボケが!! 頼金(よりかね)のやつも崇禅寺の連中も何してやがる!? なんでよりによってこんな地理ポンチに報告書作らせやがった!!」

『いやー、みんなてんやわんやで忙しくしてたからさ。よかれと思ってね』

「よかれと思うなら何もすんな!! お前は怪異相手にトンファー振り回してりゃそれでいいんだよ!!」

『そこまで言う? 俺、悲しくて泣いちゃいそうだぜ?』

「泣けよ、珍しさで寿命が伸びるかもしれないからな」


 容赦なく言う為剣に龍煇丸は、


『えー。可愛い姪孫(・・・・・)にそこまで言う?』


 と、飄々とした口調で形ばかりの抗議をした。

 しかし為剣は取り合わない。


「……いいからさっさとこっちこい。いくらお前でも、自分の学校の裏山くらいなら迷わないだろ? ――迷わずこれるよな?」


 自分で言っておきながら為剣は疑るような声を出す。


『へーきへーき。大丈夫だってー』


 呑気にそう返す龍煇丸に一抹の不安を覚えつつも、為剣は諦めて龍煇丸を待つことにした。

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