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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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diviner in the library_4

 早紀に頼まれて信姫を呼んできた仁吉は、改めて早紀の憔悴を不思議に思った。

 いったい何があったのかと不思議だったが、信姫はそれ以上に驚いている。


「だ、大丈夫ですか早紀?」

「……まったく大丈夫じゃないよ。いったい誰を探しているんだお前は? 話に聞いていた八卦返しとやらをされた感覚があるんだがね」

「八卦返し?」


 仁吉は鸚鵡返しに呟く。そして傍にいた高明は、違う理由で驚いていた。


「千里山くんは卦が立てられるのかね?」

「ええまあ、一応は。本格的なのはめったにやらないんですが、今日はまあ、親友の頼みなので」


 その言葉に高明は感動していた。そして仁吉は、やはり何のことかよく分かっていない。かろうじて、卦というのは占いのことだろうという推測がつく程度である。


「それで、言った通りだ。悪いがこっちは手がかりなしだぞ。そっちは何かあったか?」

「ええ、まあ。どうにかしますよ。ありがとうござぃした」


 そう言って信姫は早紀に頭を下げ、図書室を去ろうとする。早紀はその時に仁吉を呼び止めてカウンターの引き出しから小さな、小袋を三つ取り出した。色は青、黄、赤の三つである。それを仁吉に渡した。

 仁吉が不思議そうな顔をすると早紀は、


「困った時にあけるといい。助けになるかは知らないけどね」


 と言った。仁吉はやはり訳が分からなかったが信姫と高明には意図が伝わったようであり、信姫は、


「……それ、何か根拠なり推測なりがあって作ったんですか?」


 と呆れたように言い、高明は、


「ふむ。まあ三国志を一度でも読んだ者ならそういうことをやりたくなる心情は分かるとも」


 と一人納得したように頷いていた。

 そして肝心の、これは何であるのかということをまったく教えてくれなかったので仁吉の困惑は増すばかりである。


「それか、これでも持っていくかい?」


 次に早紀が取り出したのは一冊のノートとハリセンだった。しかもノートの表紙には達筆で『黒歴史ノート』と書かれている。


「……黒歴史ノートって書いてある黒歴史ノートってなんだい? 普通そういうのって、昔の自作小説とかポエムとかを書き綴ったのを後々になってそう呼ぶものだろう?」


 仁吉が聞くと早紀は、まあねと言った。


「しかしこれは私の黒歴史ノートではなくてね。そこのポンチシャーロキアンの奇行を私が密かに纏めたものさ」

「今すぐ焼いていいですかね?」


 信姫は早紀を睨んでノートを取り上げようとする。

 しかし早紀は先回りしてノートを遠ざけると立ち上がって仁吉に渡した。


「……あの、千里山さん。これをどうしろと?」

「信姫の奇行が手に負えなくなったら適当なページを開いて音読するといいさ」

「脅しのアイテムをさらりと渡さないでもらえませんか?」


 信姫は手渡した早紀と、反射的に受け取ってしまった仁吉を鋭く見つめた。仁吉は困ったような顔をしたが早紀は涼しげな顔をしている。


「問題ない。それは複製品だからね」

「原本を渡しなさい」


 というと信姫はカウンターの中に立ち入って引き出しをあさり始めたが、早紀はその肩をポンと叩いて、ここにはないと目で語りかけた。


「……ちなみにハリセンは?」


 流石に申し訳なくなって仁吉はノートを置き、ハリセンのほうを見た。


「実力行使のために決まっているじゃないか。何、ペトルーキオに比べれば全然紳士的だとも」

「じゃじゃ馬ならしから離れてもらえませんかね?」


 信姫はハリセンをひったくると仁吉から遠ざけた。

 そしてそのまま、信姫は仁吉を引っ張って強引に図書館から離れていく。仁吉は結局、一番最初に渡された小袋が何であるのか分からないままだった。

 離れていく二人を眺めながら、高明は早紀に聞く。


「ところで千里山くんは何故、卦など知っているのかね? 占い好きの趣味が高じて、で片付けるにはかなり難易度の高い技能だと思うのだが?」


 高明にそう聞かれて早紀は気が重そうな顔をした。


「前に色々あって綾智(あやとみ)――二年の春日野道(かすがのみち)に教えてもらいましてね」

「ほう」

「いいことなんてないですよ。そのせいで綾智のやつ、事あるごとに困ってるらしい生徒を見つけては私に占ってもらえと言いふらしてるんですよ。そのせいで私の貴重な読書タイムが何度台無しにされたことか」


 幾ばくかの恨みを込めて早紀は呟く。


「しかし、それでも頼まれたら卦を立ててあげる君の心根は素晴らしいものだと思うよ」

「まあ、それなりに長い付き合いですからね。それに信姫は、昔はかなり愉快で抜けていて、楽しい奴だったんですが、最近は大人しくて――化けの皮でも(・・・・・・)被っている(・・・・・)ようだったので(・・・・・・・)、久々にああいう姿を見れたので嬉しかったのもあります」


 早紀はそう言って少し遠い目をした。

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