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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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rough swordsman_2

 裏山、旧校舎前での喧嘩はあっけなく終わった。

 そのことを軽い調子で褒めると、龍煇丸は黒学ランの男子生徒に睨まれる。しかし龍煇丸は少しも怯まない。


「おい、何なんだよお前?」

「ん、ああ私か? 南茨木琉火、二年生だ。覚えておいてくれ」

「誰が名前教えろっつった!?」


 苛々として声を荒げる黒学ランの男子生徒が龍煇丸にはとても面白かった。武骨のかたまりのような外見と態度でありながら、可愛らしいとさえ思った。


「あれ、違うの? 喧嘩の仲裁に現れた美人の先輩に惚れちゃったから名前と、あわよくば連絡先もー、なんて思ったのかなと」


 黒学ランの男子生徒は何も言っていないが、たぶん一年生だろうと龍煇丸は思っている。雰囲気がまだどこか幼いのと、これだけ恵体の生徒が去年からいたなら間違いなく有名人だろうと思ったからだ。

 そして案の定、黒学ランの男子生徒は先輩という部分を否定しなかった。


「んなこと誰が思うかよ!! ありがた迷惑とさえ思やしねぇよ。完全に面白半分で首突っ込んできたんだろうが!!」

「まあね。けど、面白半分だから残りの半分は真剣だよ」


 黒学ランの男子生徒は堂々と舌打ちをする。

 口では勝てないし、言い争うだけ馬鹿馬鹿しいと思ったからだ。そしてさっさとこの場を離れようとした。龍煇丸のほうも、特にそれを追おうとはしない。

 ふらふらと歩いて裏山のほうへと、いつしかその姿は見えなくなっていた。

 そしてそれと入れ替わりに、剣道着を着た男子生徒がやってくる。剣道部員の稲野(いなの)賀路(ひろみち)だ。

 賀路は龍煇丸と、そして打ちのめされて倒れている不良たちを見て目を丸くした。


「み、南茨木……。まさかこれ、お前がやったのか?」


 賀路は声を震わせながら、ゆっくりと龍煇丸を指差して聞いた。確かに状況だけを見たらそう考えても不思議ではない。

 実際、龍煇丸ならば異能の力になど頼らずとも、不良の十人や二十人を捻ることくらい朝飯前にやってのけられる。

 しかし学校では、快活なだけて荒事とは無縁、というスタンスで通している龍煇丸は笑ってそれを否定した。


「あれ、稲野くんは私のこと、そういう風に思ってたんだ? 裏でケンカに明け暮れる不良女子だって」

「……いいや。むしろ、全く思ってないから困ってるんだけどな」

「ん、ならよかった。まあ実際、これやったの私じゃないからね」


 その言葉に賀路はホッとしたように胸を撫で下ろす。


「じゃあまあ……このままってわけにもいかないし、夙川先生呼んでくるか」

「そのほうがいいよね。ところで稲野くんはなんでここに? もうすぐ部活でしょ?」


 龍煇丸は不思議そうに聞いた。

 それで目的を思い出したようで、賀路は龍煇丸に聞く。


「そうだ。なあ南茨木、このあたりで……体が大きくて右目を包帯で隠してる男子見なかったか?」


 どうやら賀路は人探しが目的であるらしい。しかしその相手は意外な人物だった。龍煇丸は口笛を吹きながら不良たちを指さす。


「これやったの、そいつだよ。不良に用事だなんて何事かな稲野くん? まさか剣道部に勧誘しようとしてるとか?」


 軽い冗談のつもりだったのだが、しかし賀路は真剣な顔で頷く。これまた、龍煇丸には意外だった。


「稲野くんがラグビーとか柔道やってるならまだ分かるけど、剣道にガタイって関係ないんじゃない?」

「別に体格がいいから誘おうとしてるんじゃないよ。俺もこう、うまく言えないんだけどさ……。前に、そいつが不良数人に囲まれてる場をたまたま見かけちまってさ。止めに入ろうとしたら、竹刀だけ貸してくれって言われてさ」

「それで貸しちゃうのって、剣道部的に大丈夫なの?」


 賀路は少し返しに困ったのだが、


「まあ……でも、相手全員、鉄パイプとか金属バットとか持ってたし……」


 と絞り出すような言い訳をした。

 しかしその続きを話し始めるうちに賀路は段々と言葉に熱を帯びさせていく。


「で、まあ貸したんだよ。そしたらもう凄くてさ。囲まれてるって状況なのに鉄パイプも金属バットもあっさり受け流して弾き飛ばして、気づけば無傷で全員ノックアウトしたんだよ」

「なるほど。それで惚れ込んだってわけか。しかしそう聞くと残念なことしたな」


 龍煇丸は少しだけ後悔した。何をだ、と賀路が聞くと、


「いや、そんな超絶テクが見れると知ってりゃ、長物たくさん用意してそいつと不良どもに配ってからケンカしてもらえばよかったなーと」

「……物騒なこと言うなよ。さっきまであんなこと言っておいてなんだが、武器ありの喧嘩って普通に危ないんだぞ?」


 龍煇丸は、それはそうだねと言って、つい自分の中の物騒な面が顔を出してしまったと反省した。


「で、そいつどこ行ったんだ?」

「裏山の奥のほうだよ」


 と指さすと賀路はその方向に走り出した。

 ちなみにそれは、黒学ランの男子生徒が歩いて行った方向とは全く違うのだが、龍煇丸はそのことに気づかない。


「さーて。んじゃ、今行って鉢合わせてもマズいし、少し待ったら俺も山頂目指すとするか」


 と、龍煇丸は一人、のんびりと呟いた。

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