the locking_3
蒼天と忠江は信姫のことを知らない。
しかし信姫のことをよく知る悌誉は、詩季の顔を見て平常心ではいられなかった。
そしてそんな反応に、嫌でも慣れてしまっている詩季はため息をついて、
「何よ? もしかして貴女、あの極妻の知り合い?」
と冷たく言った。
「「ごくづま?」」
詩季の言葉も、悌誉の態度の理由も分からない蒼天と忠江は突如飛び出したおよそ学生らしからぬ単語を反射的に口にしてしまった。
詩季は目を伏せて二人に説明する。
「そうよ、私の従姉がこの学校の三年にいるんだけど、顔がちょっとだけ似ててね」
「いや、ちょっと似てるなんてものじゃないぞ」
悌誉が口を挟むと、詩季がキッと悌誉を睨む。
その視線は針のように鋭かった。しかし信姫の性格を考えれば一緒にされたくないと思うのは妥当だと思えた。そうでなくても顔が似ているというだけで頻繁に他人と間違われるなどいい気分ではないだろうと思い、悌誉は軽く頭を下げて口をつぐむ。
「まあ、ちょっと似てるのよ。その上、同姓同名なものだからまあ色々言われるわけ」
「はぁ、なるほどのう。しかし何故極妻なのじゃ? イレズミでもしておるのか?」
「いくらこの学校の校則が緩いっていっても、流石にそんな高校生いるわけないでしょ。少なくともとも大っぴらにいれてる人間なんていないわよ」
それもそうかと蒼天は頷く。
「そうじゃなくて、そいつ常に和服なの。落ち着いて物腰が柔らかくて、剣道やってるから長物も似合うのよ。なんかヤクザの姉御っぽいじゃない?」
「いや、そうはなんなくない?」
と忠江は言う。
「まあ、性格やらに関してはおぬしと真逆じゃの。落ち着きがなく、お転婆で、ハリセンと十トンハンマーが似合いそうなのがおぬしじゃ」
蒼天の言葉に詩季はこめかみに青筋を浮かべた。
苛立ちを向ける詩季に近寄ると蒼天は、その手を取って頭を下げる。
「じゃが……この前は、その性格に助けられた」
熱でうなされている自分を案じてくれたこと。
それでも静止を振り切って裏山に向かった蒼天を追うように龍煇丸に頼んでくれたらしいこと。
蒼天は詩季について感謝していた。
詩季は少し照れくさそうに、
「まあうん。あなた、無事だったみたいだし。いいわよ別にそれくらい」
と言った。
しかし悌誉と忠江には二人が何の話をしているのか分からない。そして忠江は詩季に近づいてボードゲーム同好会の活動について聞いた。
「え、今日は活動なんてないわよ? 基本不定期だし、うちは凄くそのへん緩いもの」
「ふむ、そうか。ところで次はいつなんだい?」
悌誉は少し残念そうな顔をした。
しかし元はと言えば何の確認もせずに気持ちだけが逸って学校にまでボードゲームを持ってきた自分が悪いとも思っているのでその気持ちをあまり表には出していない。
しかし詩季は話を聞いているうちに悌誉の持っているボードゲーム『春秋演義』に興味が湧いてきた。
そして、
「じゃあ今から私の家来てやる?」
と言った。悌誉は流石に申し訳ないと思ったが蒼天と忠江は乗り気である。そして当の詩季も遠慮している悌誉を見て、
「私は大丈夫ですよ」
と言った。ただし一つだけ頼みがあるとも言った。
その内容は、詩季のことをそのまま名前で呼ばずに、しー、と呼んでくれというものである。
先ほどまでの会話からその理由は十分に理解していたので悌誉は頷き、詩季の家に招いてもらうことになった。
そして向かっている途中で泰伯と蔵碓と会ったということである。
最近色々あって書くペースが落ちてるので暫くは土日も一日一話投稿にさせていただきます。