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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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is she princess or not?

 船乗りシンドバッドを探している。

 信姫は仁吉にそう言った。


「船乗りシンドバッドって、あのブギーポップもどきのことかい?」


 仁吉は自分の好きなライトノベルのキャラクターを思い浮かべながら聞いた。もっとも、外見が少し似ているくらいではあるのだが。


「そのブギーポップ、とやらは分かりませんが……見たことがあるのですか?」

「……ついこの間ね。八荒剣(はっこうけん)というやつの一人なんだろう、彼?」


 泰伯たちに聞いた話から仁吉は船乗りシンドバッドのことをそう認識していた。そしてその質問に信姫は、素直にはいと頷く。

 その素直さが仁吉には少し気持ち悪かったが、しかしこれは信姫と不八徳に関する話ではないので別に隠す必要もないのかと思い直した。


「まあ、それ以前にも彼は色々と噂になっていましたからね」

「つまり七不思議みたいな話かい?」


 そんなところですね、と信姫は頷く。


「それで、君がその船乗りシンドバッドを探しているのはどうしてだい? 不八徳の親玉として勝負でも挑もうとしてるとか?」

「いいえ。今日は、戦うつもりはありませんよ。ただ、聞きたいことがあるだけです」


 またしても、信姫の反応はとても素直で隠し事の気配がない。いや、もしかするとその言葉は嘘なのかもしれないが、はぐらかさずにあっさりと質問に答えてくれているという現状が仁吉には――不気味だった。

 その心情があからさまに顔に出ているので信姫は少しムッとした顔になる。


「なんですかその反応は?」


 そう聞かれて仁吉は明後日の方向に目を泳がせながら、


「いや……今日の御影さんは随分と、素直で感情豊かだなと思ってね」


 と直裁に答えた。

 すると信姫は急に真顔になって、


「まあ、たまにはこういう日もありますよ」


 と言った。

 そして改めて仁吉のほうを見て、


「というわけで南方くん。一緒にシンドバッド探ししませんか?」


 と誘ってきた。


「というわけで、の使い方がおかしいだろう? なんで僕がそんなことしなきゃいけないんだよ? 君は不八徳のリーダーなんだったら、他のメンバーに付き合ってもらえばいいじゃないか」

「そこはまあ、こちらにも色々と事情がありまして……」

「誰も集まらないと?」


 信姫は渋々と頷く。


「それなら一人でやればいいだろう。少なくとも、僕を誘う理由は無いと思うけれどね?」

「いいじゃないですか、どうせなら楽しくやりたいんですよ。お願いします、美人の頼みですよ!?」

「やだなぁ、自己申告制の美人の頼み……」


 それでいて信姫は本当に、目の覚めるような美人なのだからタチが悪い、と仁吉は心の中で思う。

 すがるような上目遣いで見つめられて、理性は面倒事の気配を感じ取っているのに心が揺れている自分がいることが仁吉はとても情けなく思えた。


「……じゃあさ。せめて一つくらい、何か僕へのメリットを提示してくれよ」


 押し切られてしまいそうな雰囲気を察しながら、しかしこのまま頷くのは癪なので仁吉はそう聞いた。

 信姫は少し考え込んでいた。そして困ったように口を開く。


「ええと、どうしたらいいですか?」


 仁吉ははぁ、とため息をついた。今までは煙に巻かれ続けてきたのに、信姫のほうにこんな神妙にされると自分のほうが悪いことをしているようで耐えられなくなったのだ。


「そうだね。じゃあ、船乗りシンドバッドとやらを見つけることが出来たら、僕の質問に何でも一つだけ正直に答えてくれる、というのはどうだい?」


 仁吉には特に聞きたいことがあるわけではない。というよりも、色々とありすぎて精査してから質問しないと後悔しそうだ、というのが実情である。

 それなのにここでわざわざ自分から一つと限定してしまうのが仁吉の性格である。相手が見せた弱みに付け込んで交換条件をふっかける、ということが出来なかった。

 そして信姫は仁吉の提案に頷く。

 こうして仁吉は、シャーロック・ホームズのコスプレをしたクラスメイトと共に船乗りシンドバッドを探すことになってしまった。


「で、探すといってもどうするんだい?」

「ええ、とりあえず図書室に行きましょう。そこから始めるのが一番近道だと思うので」


 図書室には仁吉も本の返却という用事があるのでちょうどよかった。が、そこで仁吉はまた一つ疑問が湧いた。


「……じゃあさっき、廊下を虫眼鏡で見てたのは何だったんだい?」

「それは……今はまだ話す時ではありません」


 そう言って信姫は早足で歩いていった。

 仁吉はもう一度、深くため息をついた。

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