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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter4“chase the hidden justice”
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the locking

 五月七日、放課後。

 泰伯は生徒会に顔を出していた。といっても今日は特に会議などがあるわけではないので生徒会室には蔵碓しかいない。

 その蔵碓はいつもよりもどこか忙しない様子で書類を確認していて泰伯の入室に気づかなかった。


「どうされましたか会長?」


 泰伯が声をかけてようやく気づき、ああ、と言って泰伯のほうを見る。


「うむ、実は……今日は少し所用があってね。やることを片付けたら先に失礼させてもらうよ」

「僕は構いませんが、家のご用事か何かですか?」

「まあそんなところだ。少し檀家さんに頼まれ事をされてね。父は多忙なので私が行くことになった」

「そう言えば会長の家ってお寺でしたね」


 蔵碓の名字の通り、崇禅寺は坂弓市に古くから続く寺院である。室町時代から続いているというのだからその歴史はとても長い。


「檀家さんからの頼まれ事って、どんなことをするんですか?」


 少し気になったので泰伯は聞いてみる。


「地下室の整理だよ。最近見つかってね」

「……地下室が最近見つかるとは?」

「うむ。戦時中に防空壕代わりに使われていたようでね。しかもどうやら、我が家の重要な文献などを失火対策で運び込んでいたらしいのだ」


 それ自体は別におかしな話ではないが、最近見つかったというのはどういうことだろう、と泰伯は思った。その訳を聞くと蔵碓は目を伏せた。


「どうやら検非違使関係の書物も含まれていたらしくてね。それで存在そのものが秘されていたのだが……些細を知る人間は戦火で死んでしまったようなのだ」

「ああ……。それで、存在ごと忘れられてしまったということですか」

「うむ。しかし今回、ちょうどその檀家さんが屋敷を増築するに当たって地質調査をした時に存在が明らかになったらしい」


 なるほどと泰伯は頷く。

 そして蔵碓が行くのは、その書物の内容を確かめるためとのことだ。

 その話を聞いた泰伯は、


「僕も同行させてもらえませんか?」


 と頭を下げて蔵碓に頼み込んだ。


「私は構わない。むしろ、手伝ってもらえるならば助かるのだが、どうしてかね?」

「前に話した不八徳の件です。崇禅寺家の古い書物があるのなら、何か手がかりがあるかもしれないと思いまして」


 そう言われて蔵碓は納得した。

 そして二人でその檀家さんの家に向かうことになった。


「ところでその檀家さんってどんな方なんですか?」


 当然の疑問として泰伯はそう聞く。

 自分が何か失礼を働けば、それは崇禅寺の代表として行っている蔵碓の顔に泥を塗ることになるのだから、相手方のことを把握しておいて問題を起こさないようにしなければ、というのが泰伯の考えだ。

 そして蔵碓はその問いの意図を察して、心配はいらないと安心させるように言う。


「もの静かだが良い方だよ。茨木くんならば、普通にしていれば問題はないさ」

「その、普通にしていればというのが一番難しいんですよ」

「そういうものかね?」

「そういうものですよ」


 泰伯は気が重たそうだった。


「そう言われると前に、仁吉にも似たようなことを言われたな。確か……お前の言う普通には他の人間には難しいのだ、というような内容だった気がする」

「そうですね。その意見については南方先輩に同意しますよ」


 はっきりとそう言われて蔵碓は深刻な顔をした。泰伯の言葉を自身の欠点への指摘と受け止めて内省しているのである。

 泰伯は、少し余計なことを言ってしまったかもしれないと思い、フォローするように言う。


「会長は今のままでいいと僕は思いますよ。ですが……そうですね、南方先輩の仰った言葉の意味をもう少し考えてみられればよいかとは思います」


 そう言われて蔵碓はむう、と唸った。

 そして同時に、一つの疑問が湧いた。


「そういえば、茨木くんは仁吉と交流があるのかね? 仁吉は稚拙な私を気にかけてよく生徒会に顔を出してくれているが、茨木くんと同席したことはなかったように思うのだが?」


 蔵碓には二人が会話している記憶はない。

 そしてそれは間違いではない。仁吉がいる時は泰伯は遠慮して顔を出さなかったし、泰伯がいる時は仁吉も生徒会には近寄っていないからだ。

 最近になって二人とも異能の力に目覚めて共闘したということは泰伯から聞いていたが、それ以前から面識があったのかどうかは蔵碓は知らない。


「そうですね。交流、と呼べるほどのものはありませんが、先輩のことは尊敬していますよ」

「そうなのかね?」

「ええ。先輩とは、少し色々とありまして。ですが先輩が素晴らしい方だということだけは分かりますよ。それだけで尊敬するというのはおかしなことでしょうか?」


 そう聞かれて蔵碓は首を横に振る。


「いや、そんなことはないさ。それに――仁吉には私もいつも助けられているからな。茨木くんがそう言う気持ちも分かるとも」


 と、そんな話をしているうちに話題が脱線していることに気づく。泰伯は元々、今向かっている崇禅寺の檀家の話を聞きたかったのだ。

 しかし聞かれても蔵碓は何と説明したものか少し考え込んでいた。そして、


「ああそうだ。御影くんのご実家だよ」


 と言った。


「御影先輩の、ですか?」


 剣道部の主将である信姫を思い浮かべながらそう言うと蔵碓は首を横に振る。


「いいや、彼女ではない。紛らわしい言い方をしてしまったな。一年生の御影詩季(しき)くんのほうだ」

「……御影先輩は三年生ですよ?」


 泰伯は頭が混乱してきた。といって、全校生徒の顔と名前を覚えている蔵碓がまさか人違いをしているとも思えないので聞くと蔵碓は、しまった、という顔をした。


「そのだね。一年生にも同姓同名の生徒がいるんだ。名前の漢字は違うがね」


 そう言われて泰伯はようやく納得した。

 そして同時に、一つの疑問が浮上した。

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