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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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playing on the board_2

 蒼天が必死になって忠江の持ち込んだボードゲーム『春秋演義』の説明書を読んでいる間、玲阿と忠江は手持無沙汰になった。蒼天の顔があまりに真剣なので話しかけるのも悪いと思い、玲阿は気を紛らわせるように、そして蒼天の邪魔をしないように小声で聞いた。


「ところで忠江ちゃん。このゲームどこで買ったの? おもちゃ屋さんって言ってたけど?」

「んとねー。確か名前がね……『カミナリバチ』だったかな?」

「か、かみなりばち? なんか変わった名前だね?」

「そーなんだよね。色々と売ってたけど全体的にお店の雰囲気が暗くてさ。店員さんも、セーラー服の上からエプロン着たお姉さんが一人だけっていう不思議なとこだったよ」


 その時のことを思いながら忠江は不思議そうな顔をしている。聞いている玲阿にも変わった店なのだろう、ということだけは伝わって来た。

 まして当の忠江にとっては、思い返しながら他人に説明すればするほどに、狐につままれたような気分がしてきた。しかし現実として買ったものは手元にあるので考えすぎかもしれないと思う。 

 そうこうしている間に悌誉が帰って来た。

 両手にさげたエコバッグにはサンドイッチと巻き寿司が大量に入っており、さらにカントリーマアムやルマンドなど個包装のお菓子のファミリーパック、さらには二リットルのペットボトルのジュースが三本もはいっていた。

 それを見た玲阿と忠江は、休日の昼時に気軽に押しかけてしまったことが急に申し訳なく思えてきた。

 しかし悌誉はそんな二人の気遣いを察して、その不安を払うように屈託なく笑った。


「そんな顔をしなくてもいいよ。私もそのゲームをするのは楽しみだし、それに……君たちが来てくれるとうちが賑やかになる。それが私にはとても嬉しくてね」


 そう言われて二人の心は少し軽くなった。

 そしてちょうどそのタイミングで蒼天は説明書を読み終えたので、ちゃぶ台の上にパネルを並べた。しかしそれだと食べ物を置くスペースがないので悌誉が押し入れからこたつを取り出してきて、その上に買ってきた巻きずしやサンドイッチを並べた。

 そして蒼天、玲阿対悌誉、忠江のチームによる勝負が始まる。

 ルールと情報が圧倒的に多いこともあり、一度のゲームにおよそ一時間を要した。結果としては悌誉、忠江チームの勝利となった。そして忠江はこの一戦でおおよそルールを把握したようだが、玲阿はまだ自信がなさそうだった。

 なので次は蒼天と忠江は個人でやり、玲阿と悌誉がチームを組むという形で勝負することになった。

 しかしそれがゲームの盤面を一気に複雑にすることになる。

 というのもこのゲームのルールには、同盟というものがある。馬の駒は騎兵として扱い、騎兵を他のプレイヤーの拠点にまで進めることが出来れば、物資や兵力のやり取りが可能となるのだ。プレイヤーは同盟を組みたい相手に対して、馬の駒を『使者である』と宣言することが出来る。そして使者を送られたプレイヤーはそれを許可すれば自国の領内に誘致でき、そこでプレイヤー同士で物資や兵力を融通する相談が出来る。

 ただし即座に交換できるのではなく、物資を運ぶための『輸送部隊』を派遣する必要がある。

 そしてこの時、第三者であるプレイヤーはサイコロを振り、規定値に達すれば、同盟や輸送についての情報を知ることが可能であり、そして輸送を阻止するために兵力を派遣することも出来る。

 そのために、盤面の複雑さは実質一対一で行っていた時の比ではなくなった。

 特に蒼天は、状況次第で忠江陣営と玲阿陣営に交互に同盟を持ち掛け、それでいて自分は積極的に戦うことなく二人で潰しあうように立ち回った。悌誉は途中でそれに気づき、玲阿に蒼天と同盟しないように勧め、結果として忠江、玲阿の同盟で蒼天を攻めるという形となる。しかし蒼天は二人が潰しあっている隙に『空白地帯』を抑えていて物資は豊富だったのですぐには負けない。

 そうして、どうにか蒼天を倒しきった時に――玲阿、悌誉チームは忠江を完全に包囲していた。


「あー無理、もう勝てん!!」


 忠江は蒼天を倒すのに物資と兵力をほとんど注ぎ込んでいたため余力がなかった。対して玲阿、悌誉チームは上手く立ち回って戦力を温存していたので、この状況で戦えばどちらが勝つかは火を見るより明らかである。


「わ、私はほとんど悌誉さんの言う通りにしてただけなんだけど……。悌誉さん、こういうゲーム得意なんですか?」

「まあね。しかし、ほとんど私がやってしまったから玲阿ちゃんはつまらなかったんじゃないか?」


 悌誉は少し申し訳なさそうな顔をした。


「いえ、その……私、どうもこういうの苦手でして」


 と苦笑いをすると、今度は忠江が暗い顔をする。


「あー、ごめんよレアチ。気軽に持ってきちゃったけど、どうもあんま楽しくなかった感じだよね」

「ううん、いいんだよ忠江ちゃん。気にしないで」

「まあ、向き不向きや好き嫌いは誰にでもあるものじゃからの。余は楽しかったが――悌誉姉にしてやられたのは少し気に入らんと言えば気に入らん」


 蒼天は忠江のフォローをしつつ悔しそうな顔をしている。

 逆に悌誉は得意げな顔をして、そして無言のままに本棚に手を伸ばすとぼろぼろになった文庫本の『孫子』を手に取って蒼天に見せてくる。『孫子』の教えの成果がこれだという圧力であった。


「……読まぬぞ」

「読め」


 断りつつ蒼天が顔を遠ざけると、悌誉は少しずつ手を伸ばして『孫子』を蒼天の顔のほうへと近づけてくる。忠江はその本のタイトルを見て首をひねった。


「なんですかそれ、我孫子(あびこ)?」

「ソンシだよ、忠江ちゃん。しかし……悌誉さん、好きですよね漢文」


 玲阿は前に悌誉に勧められたことがあり、そして少し読んだところでよく分からないと断っている。

 蒼天はなおも頑なに拒むので悌誉は不満げな顔をしながら『孫子』を本棚へしまった。そして、


「ところでどうする。今、二時だけどもう一戦するか?」


 と三人へ聞いた。

 しかし蒼天と忠江はすでにへとへとであった。三つ巴になって複雑となった状況で勝負していたので当然ではある。

 しかし悌誉はむしろ、不完全燃焼といった様子であった。

 そして忠江に買った場所と値段を聞いた。すると忠江は、


「それならボドゲ同好会にでも持っていったらどうですか? たぶん得意な人多いと思いますよ。これあげるんで」


 とさらりと言った。悌誉は流石にそれは悪いと断ったのだが、忠江曰くなんと千円で買ったとのことである。いくらなんでも安すぎる、と悌誉と蒼天は思った。しかし実際にその値段だったらしい。

 古い商品の在庫整理かとも考えたが、商品は箱も奇麗で中の駒などの状態もよい。不思議に思ったが、しかし考えても仕方のないことなのでそれ以上気にすることはなかった。ただし悌誉は、いちおう忠江に千円は渡した。悌誉が頑ななので忠江はしぶしぶと千円を受け取った。


「というかさー、なんか頭使いすぎて疲れたんだけど」


 と忠江が言うと蒼天は思いついたように言う。


「なら、今からカラオケでも行くかの?」

「お、いいねよっちゃん!! 久しぶりに言っちゃう?」


 玲阿も乗り気だった。


「そーいや二人とはまだカラオケ行ってないねー。おっしゃいくかー!!」


 そして忠江も賛成した。

 悌誉も誘ったのだが、悌誉は『春秋演義』に夢中になっていたので家に残ることになり、三人でカラオケボックスへと向かった。

 そして――忠江は二十分ほどでカラオケボックスを後にした。慌てて後を追う二人に忠江は、


「二度とお前らとカラオケなんか行かねーかんなこのジャイアンズめ。次に誘いやがったら絶交してやっかんなー!!」


 と言い放った。

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